判旨
推計課税において、特段の事情がない限り仕入品の利益率から売上品の利益率を推定することは合理的であり、課税庁が更正時に使用しなかった資料であっても、それが所得を適正に推計し得るものである限り、更正の正当性を基礎付ける証拠として用いることができる。
問題の所在(論点)
推計課税において、仕入品の利益率に基づき売上利益を推計することの合理性、および、更正時に使用しなかった別年度の標準表を所得認定の資料とすることの可否(推計の合理性の判断基準)。
規範
1. 特段の事情のない限り、仕入品の利益率から売上品の利益率を推計することは合理性を有する。2. 更正処分の適法性は、処分の基礎となった資料の如何に関わらず、処分によって認定された所得金額が客観的に正しいか否かによって決する。したがって、更正時に用いなかった資料であっても、事後の裁判等において所得金額を合理的に推計し得る資料として用いることができる。
重要事実
上告人は、昭和26年度の所得税について課税庁から更正決定を受けた。原審は、上告人の所得金額を認定するにあたり、売上原価に「差益率」を乗じて計算する方法(推計課税)を採用した。その際、課税庁が更正決定時には使用していなかった「昭和27年分商工庶業所得標準表」を、昭和26年度の差益率を推認するための資料として用いた。上告人は、仕入品と売上品は一致しないため仕入品の利益率による推計は不合理であること、及び更正時と異なる年度の資料に基づく推計は違法であること等を主張して争った。
あてはめ
まず、仕入品と売上品が必ずしも一致しないとしても、特段の事情がない限り、仕入品の利益率から売上利益率を推定することは不合理とはいえない。本件では、当事者間に争いのない売上原価を基礎としており、これに合理的な差益率を乗じる方法は有効である。次に、課税庁が更正時に用いた資料と異なる資料(昭和27年度の標準表)を裁判所が採用した点については、それが真実の所得額を正当と認めるに足りる資料である以上、更正決定を正当化する証拠となり得る。本件の標準表と昭和26年度との間に差異が生ずべき特段の事情は認められないため、これに基づき同率の差益率を推認することは経験則に反しない。
結論
本件推計方法は合理的であり、更正決定は正当である。仕入品の利益率を用いた推計や、更正時とは異なるが合理的な資料による補強は、いずれも違法ではない。
事件番号: 昭和34(オ)267 / 裁判年月日: 昭和35年2月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】納税者の帳簿が完備せず直接資料を欠く場合、後日の在庫高から過去の平均在庫高を推定して所得金額を算定する推計課税の方法も、合理的である限り適法である。 第1 事案の概要:上告人は、昭和24年度の所得金額について税務署長(被上告人)から更正処分を受けた。上告人の帳簿は不完備であり、正確な所得を直接把握…
実務上の射程
推計課税の合理性を争う場面で、推計方法(比率法等)の選択や、課税庁による証拠提出後の後付け的な立証の可否が問われる際の根拠となる。実務上は、特定の推計手法が「特段の事情」がない限り合理的であるという推認を導くための判例として引用される。
事件番号: 昭和29(オ)64 / 裁判年月日: 昭和31年6月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】課税処分における所得額の算定について、仕入商品に対する利益率を推計により認定すること、および雑損金の有無を原審の判断に委ねることは、法令の解釈に関する重要な主張を含まない適法なものとされる。 第1 事案の概要:上告人は、税務当局による所得算定の基礎となった利益率の推計方法および雑損金の不算入につい…
事件番号: 昭和38(オ)1455 / 裁判年月日: 昭和40年7月6日 / 結論: 棄却
国税局作成に係る商工庶業所得標準率表に掲げた当該年度の所得標準率を適用し、かつ右標準率作成につき考慮外に置かれた特別経費を控除して推計された事業所得金額は、右所得標準率の当該事業に対する適用が具体的に妥当しない事実の証明のないかぎり、一応右事業所得金額とするに足りる真実近似性を保有するものと推定するのを妨げない。
事件番号: 昭和37(オ)1259 / 裁判年月日: 昭和38年10月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】課税処分における所得金額の推計に関し、被上告人が採用した所得標準率の作成方法が適正である限り、これを用いて農業所得を算出することは、推計の手法として不相当とはいえず適法である。 第1 事案の概要:上告人は農業所得等の金額算出において、被上告人が採用した所得標準率に不服を申し立てた。具体的には、麦の…
事件番号: 昭和27(オ)455 / 裁判年月日: 昭和30年7月26日 / 結論: 棄却
所得税法(昭和二五年法律第七一号による改正前)第一〇条第二項の「仕入品の原価」とは、仕入れし得べき価格ではなく、仕入品の現実の取得原価と解すべきである。