所得税法(昭和二五年法律第七一号による改正前)第一〇条第二項の「仕入品の原価」とは、仕入れし得べき価格ではなく、仕入品の現実の取得原価と解すべきである。
所得税法(昭和二五年法律第七一号による改正前)第一〇条第二項の「仕入品の原価」の意義
所得税法(昭和25年法律71号による改正前)10条2項
判旨
所得税法上の「仕入品の原価」とは、特段の事情がない限り、貨幣価値の変動にかかわらず、取得に要した現実の取得原価を指す。また、実際の仕入原価が不明な場合に、税務官署が納税者の不利益にならない範囲で客観的な評価額を原価として算定することは適法である。
問題の所在(論点)
1. 旧所得税法10条2項の「仕入品の原価」は、現実の取得原価を指すか、あるいは処分時の時価(仕入れし得べき価格)を指すか。2. 実際の取得原価が不明な場合に、税務官署が一定の評価額を原価とみなして算定することの適否。
規範
旧所得税法10条2項にいう「仕入品の原価」は、原則として実際の取得原価(取得に要した支出額)を意味する。貨幣価値が急激に下落する等の経済情勢の変化がある場合でも、文理解釈上、これを「仕入れし得べき価格」(時価)と解することはできない。ただし、実際の取得原価が不明な場合には、実務上の要請から、納税者の不利益とならない客観的に合理的な評価額を基礎として必要経費を算定することが許容される。
重要事実
上告人は、営業上の目的で仕入れ、同目的で処分した手持ちの鋼材について、旧所得税法上の所得計算を行う際、その「仕入品の原価」を当時の「仕入れし得べき価格(時価)」と解すべきだと主張した。しかし、被上告人(税務官署)は、実際の取得原価が不明であったため、財産税申告当時の価格(トン当たり2000円)を原価として必要経費を算定し、更正処分等を行った。これに対し、上告人は貨幣価値の下落を理由に時価評価を求め、さらに取得原価不明の場合の評価方法の矛盾を主張して争った。
事件番号: 昭和30(オ)735 / 裁判年月日: 昭和33年6月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】推計課税において、特段の事情がない限り仕入品の利益率から売上品の利益率を推定することは合理的であり、課税庁が更正時に使用しなかった資料であっても、それが所得を適正に推計し得るものである限り、更正の正当性を基礎付ける証拠として用いることができる。 第1 事案の概要:上告人は、昭和26年度の所得税につ…
あてはめ
1. 鋼材は営業目的で取得・処分されており「仕入品」に該当する。貨幣価値下落という経済情勢下で取得原価を用いることが納税者に不利益をもたらすとしても、法文が「原価」としている以上、これを時価と読み替えることは立法論に属し、解釈としては現実の取得原価と解するほかない。 2. 実際の仕入原価が不明である本件において、被上告人が採用したトン当たり2000円という価格は、上告人が主張する取得価格よりも高額であり、納税者にとって不利益な評価ではない。所得計算の必要上、実務的に合理的な範囲で評価を行うことは違法とはいえない。
結論
「仕入品の原価」は現実の取得原価を指し、実際の原価が不明な場合に納税者に不利益とならない評価額を用いることは適法であるため、上告を棄却する。
実務上の射程
所得税法における「取得原価主義」を維持するリーディングケースであり、インフレ等の経済変動を理由とする時価評価への読み替えを否定する。答案上は、必要経費の計算において文言の厳格解釈を基礎としつつ、立証困難な場合の推計的な認定や評価の合理性を肯定する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和27(オ)1058 / 裁判年月日: 昭和32年9月19日 / 結論: 棄却
財産税法による課税価格の再更正があつた場合の当初の更正の取消を求める訴は不適法である。
事件番号: 昭和31(オ)167 / 裁判年月日: 昭和32年10月22日 / 結論: 棄却
製造業者が製造行為を廃止した後原料の売却処分によつて生じた所得は所得税法(昭和二五年法律第七一号による改正前)第九条第一項第九号にいう事業等所得であつて同項第七号の譲渡所得ではない。
事件番号: 昭和34(オ)267 / 裁判年月日: 昭和35年2月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】納税者の帳簿が完備せず直接資料を欠く場合、後日の在庫高から過去の平均在庫高を推定して所得金額を算定する推計課税の方法も、合理的である限り適法である。 第1 事案の概要:上告人は、昭和24年度の所得金額について税務署長(被上告人)から更正処分を受けた。上告人の帳簿は不完備であり、正確な所得を直接把握…