判旨
金銭債務の支払に際して手形が振り出された場合、原則として「支払のために」なされたものと推定されるが、当事者間に「支払に代えて」する暗黙の合意がある場合には、手形振出と同時に原因債権は消滅する。
問題の所在(論点)
金銭債務(売買代金債権)の支払に関して手形が振り出された場合において、当該手形の交付が「支払のために」なされたのか、それとも「支払に代えて」なされたものとして原因債権を消滅させるのかという、手形授受の性質が問題となる。
規範
金銭債務の支払に際し手形が振り出された場合、特段の事情がない限り、手形は「支払のために」交付されたものと解され、原因債権は手形金が決済されるまで消滅しない。しかし、当事者間に当該手形の授受をもって直ちに原因債権を消滅させる旨の「支払に代えて」(代物弁済)の合意がある場合には、手形の振出により原因債権は即時に消滅する。この合意は、明示のものに限らず、取引の態様や当事者の意思解釈を通じて暗黙の合意として認められうる。
重要事実
上告人は、被上告人に対し売買代金債権を有していたが、被上告人はその支払に代えて昭和31年11月7日に本件約束手形を振り出した。原審は、当該手形の振出が取引代金の支払に代えてなされる暗黙の合意があったと認定した。上告人は、商慣習等に照らし原因債権は消滅していないと主張して上告した。
あてはめ
本件では、手形の振出が取引代金の支払に代えてなされる暗黙の合意があったと認定されている。このような合意が認められる以上、手形の交付が単なる支払の準備や確保(支払のために)ではなく、既存の売買代金債務を消滅させ、手形債務へと切り替える趣旨(支払に代えて)であったと評価できる。したがって、手形が振り出された昭和31年11月7日の時点で、原因債権である売買代金債権は消滅したと解するのが相当である。
結論
本件売買代金債権は、手形振出の際になされた暗黙の合意に基づき、昭和31年11月7日をもって消滅した。したがって、上告人の請求は認められない。
実務上の射程
原因債務の存否が争点となる事案において、手形授受が「支払のために」か「支払に代えて」かを区別する際の判断基準として活用する。原則は「支払のために」(債務不消滅)であるが、本判例は「暗黙の合意」による代物弁済(債務消滅)の成立を肯定する際の考慮要素を認定する実務上の指針となる。
事件番号: 昭和32(オ)685 / 裁判年月日: 昭和33年3月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】既存債務の支払確保のために交付された手形が新手形と交換された場合、新手形の支払がない限り、交換のみによって原因債権である既存債務が消滅することはない。 第1 事案の概要:上告人(買主)は、被上告人(売主)に対する売買代金債務の支払確保のため、旧手形を交付していた。その後、旧手形と引き換えに新手形が…