金額一六万ないし三四万円の手形一五通 その合計金額三、七二二、五三二円のうち、一部を減額した残額二、三七二、四三二円の支払請求をそのまま認容した原判決は、認容額に対応する手形の特定を欠くため、請求の特定を欠き、違法である。
数通の手形金のうち一部の支払を求める訴において認容金額に対応する手形の特定を欠く違法があるとされた事例
民訴法191条,民訴法199条
判旨
執行裁判所が転付命令を発した場合、特段の事情のない限り、第三債務者への送達および被転付債権の存在を推認し、執行債権が消滅したものと認めるべきである。また、手形の原因債権が貸付金によって弁済された場合、その手形債権の原因関係は消滅したと解するのが相当である。
問題の所在(論点)
1. 転付命令が発せられた事実がある場合、特段の証拠がなくとも、第三債務者への送達や被転付債権の存在を推認して執行債権の消滅を認めることができるか。 2. 手形の原因債権が別途成立した貸付金により弁済された場合、手形債権の原因関係は消滅するか。
規範
1. 転付命令が発せられた場合、執行裁判所は遅滞なく第三債務者へ送達するのが通常であり、債権者も債権の存在を調査して申し立てるのが通常である。したがって、転付命令を無効とする事情や債権の不存在を推認させる特段の事情がない限り、当該送達および被転付債権の存在、ならびにこれによる執行債権の消滅を推認すべきである。 2. 手形の原因債権について、別途生じた貸付金によって弁済がなされた場合、当該貸付金債権は原因債権とは別個の債権であり、原因債権が弁済された以上、その支払のために振り出された手形もその限度で原因関係が消滅する。
重要事実
1. 被上告人(債権者)は、上告人(債務者)の連帯保証人が有する火災保険金債権に対し、差押および転付命令を得た。しかし、原審は送達や債権存在の証拠がないとして債権消滅の効力を否定した。なお、第三債務者や債権額に関する更正決定がなされていた。 2. 上告人は肥料代金の支払のために本件手形を振り出したが、被上告人が他から借り受けた金を上告人に貸し付け、これを肥料代金の弁済に充てた事実がある。原審は、債務総額に変わりがないとして手形の原因関係消滅を否定した。
あてはめ
1. 本件では裁判所が転付命令を発した事実が認定されている。更正決定の効力や送達先、被転付債権の帰趨を詳細に審理せず、特段の事情の有無を判断せずに、単に証拠がないとして債権消滅を否定した原審には審理不尽・理由不備がある。 2. 肥料代金債権と新たに生じた貸付金債権は別個の債権である。貸付金によって肥料代金が弁済された以上、その支払のために振出された手形は、その限度で原因関係を欠くに至ったといえる。債務総額に変動がないとしても、個別の債権関係は別個に判断すべきである。
結論
1. 転付命令による執行債権消滅の有無について審理を尽くさせるため、原判決を破棄し差し戻す。 2. 原因債権が消滅した限度で、手形債権の原因関係消滅を認めるべきである。
実務上の射程
転付命令による弁済効(民事執行法160条)の事実上の推定に関する準則を示すものである。答案上は、債権消滅の抗弁において、転付命令の発令事実から送達・債権存在を推認させる論拠として活用できる。また、原因関係と手形債権の個別性、弁済による原因関係消滅の構成を論じる際にも参照しうる。
事件番号: 昭和34(オ)155 / 裁判年月日: 昭和35年6月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】手形振出の原因関係を欠く旨の抗弁が主張された場合、裁判所が当該事由を認めない一方で、反対に原因関係が肯定されるとの事実認定をすることは、適法な証拠の取捨選択の範囲内である。 第1 事案の概要:手形金の支払を求める訴訟において、被告(上告人)は原因関係を欠く旨の抗弁を主張した。これに対し原審は、被告…
事件番号: 昭和34(オ)255 / 裁判年月日: 昭和36年6月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】金銭債務の支払に際して手形が振り出された場合、原則として「支払のために」なされたものと推定されるが、当事者間に「支払に代えて」する暗黙の合意がある場合には、手形振出と同時に原因債権は消滅する。 第1 事案の概要:上告人は、被上告人に対し売買代金債権を有していたが、被上告人はその支払に代えて昭和31…