一 売買代金債務の支払確保のため手形の振出を受けた債権者が、担保のため第三者にこれを裏書譲渡しても、裏書人としての償還義務を免れるまでは、債務者の右代金債務は消滅しない。 二 前項の場合、債権者が未だ自己に手形を回収していなくても、債務者に対し代金債務の履行を請求することは妨げない。 三 売買代金債務の支払確保のため手形を振出した債務者は、特段の事由のないかぎり、右売買代金の支払は手形の返還と引換にする旨の同時履行の抗弁をなし得る。
一 支払確保のため振出された手形の譲渡と原因債務の消滅の有無 二 支払確保のため振出された手形を所持しない債権者と原因債務の履行請求の許否 三 手形の原因債権に基く請求と手形の返還義務との同時履行
手形法第1編,手形法第2編,民法533条
判旨
既存債務の支払確保のために交付された手形が第三者に担保譲渡された場合でも、債権者が償還義務を免れない限り原因債権は消滅せず、債権者は手形を回収せずとも原因債権を行使できる。
問題の所在(論点)
既存債務の支払確保(担保)のために交付された手形が第三者に転譲渡された場合、債権者が手形を回収するまで原因債権の行使が制限されるか、また、原因債権の行使と手形の返還はどのような関係に立つか。
規範
既存債務の支払確保のために交付された手形は、裏書禁止の特約がない限り、債権者が第三者に対し担保目的で裏書譲渡することが認められる。この場合、債務者が既存債務を履行しない限り、また債権者が裏書人としての償還義務を免れるまでは、既存の原因債権は消滅しない。さらに、債権者は手形を回収する前であっても、原因債権を行使することが可能である。
重要事実
上告人(債務者)は、被上告人(債権者)に対する商品売買代金債務の支払確保のため、為替手形を振り出し、自ら引き受けた。被上告人は、この手形を自己の債務担保のために銀行へ裏書譲渡した。上告人は、手形が第三者に渡っている以上、被上告人が手形を回収するまでは原因債権を行使できないと主張した。なお、当事者間には「債務決済後に手形が無効となった旨の証明文書を交付する」旨の特約が存在した。
あてはめ
本件では、手形が第三者である銀行に裏書譲渡されているが、これによって直ちに債務者が既存債務を免れるわけではない。被上告人は裏書人として依然として償還義務を負っており、債権が消滅したとはいえない。また、債権者が手形を自己に回収しなければ原因債権を行使できないとする法的根拠はない。本来、債務者は手形の返還と引換に支払う旨の同時履行の抗弁をなし得るが、本件では債務決済後に証明書を交付する旨の特約があるため、同時履行の関係すら否定される。
結論
被上告人は手形を回収していなくとも、上告人に対し既存の原因債権(売買代金請求権)を行使することができる。
実務上の射程
手形の担保的交付(「支払のため」)において、手形が転々流通した場合の原因債権の帰趨を示す。答案上は、二重支払の危険を防ぐための同時履行の抗弁権(手形法上の論点)とセットで、原因債権自体の行使可能性を論じる際に活用する。
事件番号: 昭和32(オ)685 / 裁判年月日: 昭和33年3月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】既存債務の支払確保のために交付された手形が新手形と交換された場合、新手形の支払がない限り、交換のみによって原因債権である既存債務が消滅することはない。 第1 事案の概要:上告人(買主)は、被上告人(売主)に対する売買代金債務の支払確保のため、旧手形を交付していた。その後、旧手形と引き換えに新手形が…