判旨
大学による学生への懲戒処分(退学処分)は、学長等の合理的な裁量に委ねられており、その処分が社会観念上著しく妥当を欠くと認められない限り、適法である。
問題の所在(論点)
大学による学生への退学処分の適法性判断における司法審査の基準、および「社会観念上著しく妥当を欠く」か否かの判断枠組みが問題となる。
規範
学生に対する懲戒処分としていかなる処分を選択するかは、原則として学長等の裁量に委ねられた事項である。裁判所による司法審査においては、当該処分が「社会観念上著しく妥当を欠く」と認められない限り、裁量権の逸脱・濫用はないものと解する。また、処分手続の適正さについては、弁明の機会の付与や学内組織による慎重な検討が行われたか否かによって判断される。
重要事実
私立大学の学生である上告人が、試験において下敷きに鉛筆で書かれた内容を答案用紙に書き写すという不正行為(カンニング)を行った。大学側は学則(「学生としての本分に反した者」を退学にできる規定)に基づき、上告人に対して弁明の機会を与え、補導委員会および教授会での慎重な検討を経て、最終的に退学処分を決定した。これに対し、上告人が処分の苛酷さと手続の不備を理由に争った事案である。
あてはめ
まず、上告人の行為は不正行為であり、単なる能力の問題に留まらず「学生としての本分に反する」ものといえる。次に、手続面では、被上告人が上告人に対して十分に弁明の機会を与えていること、また、補導委員会や教授会といった学内機関において処分が慎重に検討されていることから、公正さが担保されている。さらに、不正行為の内容に照らせば、退学という選択も学長の裁量の範囲内であり、社会観念上著しく妥当を欠くものとは認められない。
結論
本件退学処分は学長の裁量の範囲内であり適法である。したがって、上告を棄却する。
実務上の射程
大学の自律性に鑑み、懲戒処分の選択については広範な裁量を認めるのが判例の確立した立場(部分社会の法理を背景とする)である。答案上では、①事実関係から「学生の本分に反する」評価が可能か、②弁明の機会等の手続的適正があるか、③処分が重すぎて社会通念上著しく妥当を欠かないか、という三段構えで検討する際に活用する。
事件番号: 昭和28(オ)525 / 裁判年月日: 昭和29年7月30日 / 結論: 棄却
一 公立大学の学長がその学生に退学を命ずる行為は、行政事件訴訟特例法第一条にいう行政処分に当る。 二 公立大学学生の行為に対し、懲戒処分を発動するかどうか、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶかを決定することは、この点の判断が社会観念上著しく妥当を欠くものと認められる場合を除き、原則として、懲戒権者としての学長の裁量に任さ…
事件番号: 昭和31(オ)296 / 裁判年月日: 昭和31年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】大学による学生への停学処分は、教育的見地から学内の秩序維持のために行われる内部的措置であり、その有効性判定において裁量権行使の当不当を論ずることは、特段の事情がない限り司法審査の対象外である。 第1 事案の概要:私立大学の学生である上告人は、試験中に教科書を膝の上に広げて見るという不正行為を二度に…
事件番号: 平成7(行ツ)74 / 裁判年月日: 平成8年3月8日 / 結論: 棄却
市立高等専門学校の校長が、信仰上の理由により剣道実技の履修を拒否した学生に対し、必修である体育科目の修得認定を受けられないことを理由として二年連続して原級留置処分をし、さらに、それを前提として退学処分をした場合において、右学生は、信仰の核心部分と密接に関連する真しな理由から履修を拒否したものであり、他の体育種目の履修は…