市立高等専門学校の校長が、信仰上の理由により剣道実技の履修を拒否した学生に対し、必修である体育科目の修得認定を受けられないことを理由として二年連続して原級留置処分をし、さらに、それを前提として退学処分をした場合において、右学生は、信仰の核心部分と密接に関連する真しな理由から履修を拒否したものであり、他の体育種目の履修は拒否しておらず、他の科目では成績優秀であった上、右各処分は、同人に重大な不利益を及ぼし、これを避けるためにはその信仰上の教義に反する行動を採ることを余儀なくさせるという性質を有するものであり、同人がレポート提出等の代替措置を認めて欲しい旨申し入れていたのに対し、学校側は、代替措置が不可能というわけでもないのに、これにつき何ら検討することもなく、右申入れを一切拒否したなど判示の事情の下においては、右各処分は、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超える違法なものというべきである。
信仰上の理由により剣道実技の履修を拒否した市立高等専門学校の学生に対する原級留置処分及び退学処分が裁量権の範囲を超える違法なものであるとされた事例
学校教育法11条,学校教育法70条の2,学校教育法施行規則13条,学校教育法施行規則27条,学校教育法施行規則72条の6,神戸市立工業高等専門学校学則(昭和38年神戸市教育委員会規則第10号)13条,神戸市立工業高等専門学校学則(昭和38年神戸市教育委員会規則第10号)14条,神戸市立工業高等専門学校学則(昭和38年神戸市教育委員会規則第10号)31条,行政事件訴訟法30条,教育基本法3条1項,教育基本法9条,憲法20条
判旨
信仰上の理由による剣道実技の履修拒否に対し、代替措置を一切検討せずに行われた原級留置処分及び退学処分は、考慮すべき事項を考慮しておらず、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え違法である。
問題の所在(論点)
信仰上の理由による履修拒否に対し、代替措置を講じることなく原級留置処分及び退学処分を行うことが、校長の裁量権の範囲内として許容されるか。
規範
校長による原級留置や退学処分は、原則として合理的な教育的裁量に委ねられる。しかし、退学処分は学生の身分を剥奪する重大な措置であり、原級留置も甚大な不利益を課すものであるから、教育上やむを得ない場合に限られるべきであり、慎重な配慮を要する。処分が全く事実の基礎を欠くか、又は社会観念上著しく妥当を欠く場合には、裁量権の逸脱・濫用として違法となる。特に、特定の行為が個人の信仰の核心と密接に関連する場合、裁量権の行使にあたり、その不利益の性質と代替措置の可能性に相応の考慮を払う必要がある。
重要事実
エホバの証人の信者である高等専門学校の学生が、教義に反するとして必修科目である剣道実技の履修を拒否し、レポート提出等の代替措置を求めた。学校側は代替措置を一切認めず、剣道実技に参加しないことを理由に体育科目を不認定とし、2年連続の原級留置を経て退学処分を課した。なお、当該学生は他の科目では成績優秀であり、かつ他の高専では代替措置を講じている例も存在した。
あてはめ
第一に、学生の履修拒否理由は信仰の核心に関わる真摯なものであり、処分により信仰に反する行動を余儀なくされるという重大な不利益が生じている。第二に、高専において剣道履修は必須とまではいえず、レポート等の代替措置による教育目的達成は性質上可能である。第三に、他の学校での実施例から代替措置に実際上の障害はなく、これを認めても政教分離原則(憲法20条3項)には反しない。それにもかかわらず、学校側は代替措置の是非を十分に考慮せず、正当な理由のない履修拒否と同一に扱っており、考慮尽くし難きがある。したがって、本件各処分は評価が明白に合理性を欠き、社会観念上著しく妥当を欠く。
結論
本件各処分は、裁量権の範囲を逸脱・濫用したものであり、違法である。
実務上の射程
行政上の裁量処分に関する「考慮不尽」や「他事考慮」を主張する際のリーディングケースとなる。特に、一般的な中立的規則(体育の履修規定)が、特定の宗教的信条を持つ者に事実上の甚大な不利益を課す場合、憲法上の権利(信教の自由)を考慮した個別的配慮が裁量権行使のプロセスとして要求されることを示している。
事件番号: 昭和28(オ)745 / 裁判年月日: 昭和29年7月30日 / 結論: 棄却
公立大学学生の行為に対し、懲戒処分を発動するかどうか、懲戒処分のうちのいずれの処分を選ぶかを決定することは、その決定が全く事実上の根拠に基かないと認められる場合であるか、もしくは社会観念上著しく妥当を欠き懲戒権者としての学長の裁量権の範囲を超えるものと認められる場合を除き、その裁量に任される。