学校教育法五一条、二一条所定の教科書使用義務に違反する授業をしたこと、高等学校学習指導要領(昭和三五年文部省告示第九四号)から逸脱する授業及び考査の出題をしたこと等を理由とする県立高等学校教諭に対する懲戒免職処分は、各違反行為が日常の教科(日本史、地理B)の授業、考査に関して行われたものであつて、教科書使用義務違反の行為は年間を通じて継続的に行われ、右授業等は学習指導要領所定の当該各科目の目標及び内容から著しく逸脱するものであるほか、当時当該高等学校の校内秩序が極端に乱れた状態にあり、当該教諭には直前に争議行為参加による懲戒処分歴があるなど判示の事実関係の下においては、社会観念上著しく妥当を欠くものとはいえず、懲戒権者の裁量権の範囲を逸脱したものとはいえない。
教育関係法規に違反する授業をしたこと等を理由とする県立高等学校教諭に対する懲戒免職処分が懲戒権者の裁量権の範囲を逸脱したものとはいえないとされた事例
地方公務員法29条1項32条,学校教育法21条,学校教育法51条,学校教育法施行規則57条の2,行政事件訴訟法30条
判旨
公務員への懲戒処分において、処分を行うか否か及び処分の選択は懲戒権者の裁量に委ねられ、その判断が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を逸脱・濫用したと認められる場合に限り違法となる。本件では、学習指導要領等への継続的・意図的な違反や過去の懲戒歴、学校秩序の混乱への影響を考慮し、懲戒免職処分を適法とした。
問題の所在(論点)
地方公務員法29条1項に基づく懲戒免職処分が、懲戒権者の裁量権の範囲を逸脱・濫用したものであり、違法となるか。
規範
地方公務員法に基づく懲戒処分は、懲戒権者の裁量に任されている。裁判所がその適否を審査するにあたっては、懲戒権者と同一の立場で判断するのではなく、処分の決定が「社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用した」と認められる場合に限り、違法と判断すべきである。判断に際しては、懲戒事由に該当する行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響のほか、当該公務員の前後における態度、処分歴、社会に与える影響等を総合的に考慮する。
重要事実
県立高校の教諭である被上告人らは、日本史や政治経済の授業において、学習指導要領の目標を逸脱した特定の思想(唯物史観等)に基づく授業を継続的に行い、所定の教科書を使用しなかった。また、考査を実施せず一律の成績評価を行うなどの不適切行為があった。被上告人らには過去にストライキ参加による減給等の懲戒歴もあり、当時の校内秩序は極端に乱れていた。これに対し、県教育委員会は被上告人らを懲戒免職処分とした。
あてはめ
被上告人らの行為は、教育活動の枢要な部分である授業や成績評価において、学校教育法や学習指導要領に明白に違反するものである。特に、教科書不使用が自己の思想信条に基づき意図的・継続的に行われた点や、授業内容の逸脱が著しい点は、法規違反の程度が軽微とはいえない。また、これらの特異な教育活動が校内の混乱を助長し、保護者に不安を与えた責任は重い。さらに、短期間に複数回の懲戒処分歴があることは法秩序軽視の態度を示す。これら諸般の事情を総合すれば、免職処分の選択が社会観念上著しく妥当を欠くとはいえない。
結論
本件懲戒免職処分は、懲戒権者の裁量権の範囲を逸脱・濫用したものとはいえず、適法である。
実務上の射程
行政庁の広範な裁量を認めた「神戸税関事件」の枠組みを、地方公務員の懲戒免職処分(学校教育の場)においても再確認したものである。答案上は、裁量権の逸脱・濫用の審査基準を明示した上で、違反の継続性や動機の悪質性、組織秩序への影響といった具体的事実を「総合評価」の要素としてあてはめる際に参照すべきである。
事件番号: 昭和59(行ツ)45 / 裁判年月日: 平成2年1月18日 / 結論: 棄却
一 高等学校学習指導要領(昭和三五年文部省告示第九四号)は、法規としての性質を有する。 二 学校教育法五一条により高等学校に準用される同法二一条は、高等学校における教科書使用義務を定めたものである。
事件番号: 昭和59(行ツ)36 / 裁判年月日: 平成元年4月25日 / 結論: 棄却
一 地方公営企業労働関係法一一条一項は、同法附則四項により地方公営企業職員以外の単純な労務に雇用される一般職の地方公務員に準用される場合を含めて、憲法二八条に違反しない。 二 市の市長部局各部門、教育委員会で多数の職員が参加して約一時間の職場放棄を行い、市立の二病院で多数の職員が参加して二四時間の同盟罷業を行つたなどの…
事件番号: 昭和47(行ツ)52 / 裁判年月日: 昭和52年12月20日 / 結論: 破棄自判
一、職員の行為が国家公務員法(昭和四〇年法律第六九号による改正前のもの)九八条五項に違反する場合であつても、それが同法九八条一項、一〇一条一項、人事院規則一四―一第三項の違反となることを妨げられない。 二、裁判所が懲戒権者の裁量権の行使としてされた公務員に対する懲戒処分の適否を審査するにあたつては、懲戒権者と同一の立場…
事件番号: 昭和58(行ツ)127 / 裁判年月日: 昭和63年1月21日 / 結論: 棄却
教職員組合が教職員の定数確保、昇級・昇格の完全実施等の要求を掲げていつせい休暇闘争を行つたが、当時県当局が実施した定数削減、定期昇級・昇格発令延伸等は極度の財政逼迫状態のもとでやむなくとられた措置であり、また、右休暇闘争は三日間にわたり三日間で県下小・中学校の教職員の延べ約八割七分に及ぶ約五二〇〇名が参加して行われたも…