右受任者は、その受任義務が自己の責に帰すべき事由により履行不能になつたものとして、特段の事情がない限り、手形額面金額相当の損害賠償義務を負う。
約束手形の換金方の委任を受けた者が、自己の債務の支払に充てるため第三者に手形を譲渡し、右第三者において振出人より手形金の支払を受けたときの右受任者の損害賠償責任。
民法415条,民法416条
判旨
手形の換金委任を受けた受任者が義務を履行せず、手形が満期支払等により第三者に渡り権利が消滅した場合、受任者の義務は履行不能となり、原則として手形額面相当額の損害賠償責任を負う。
問題の所在(論点)
手形の換金委任を受けた受任者が、手形を私的に流用したり換金後に現金を交付しなかったりした場合において、民法415条に基づく損害賠償責任の有無、履行不能の時期、および損害額の算定根拠が問題となる。
規範
手形換金の委任契約において、受任者が義務を履行せず手形権利が消滅したときは、特段の事情のない限り、手形満期における支払の時に履行不能が生じる。その損害額は、原則として手形が有していた交換価格(額面金額)に等しい。ただし、満期前に善意取得等により権利が喪失した場合は、その時点で履行不能となり、損害額は当時の割引料を控除した金額となる。また、委任事務の履行期や交付金額の約定は、手形の性質上、満期や額面により自ずから制限を受けるため、これらを考慮して合理的に解釈すべきである。
重要事実
上告人会社は、取締役Dを通じて被上告人に対し、約束手形2通を交付して木材を購入・売却する方法で現金化し、その現金を会社に取得させるよう依頼した(換金委任)。被上告人はこれを受諾したが、1通の手形については自己の債務支払のために第三者へ譲渡し、当該手形は満期に振出人によって支払われた。もう1通についても木材を売却したが代金を会社に引き渡さなかった。原審は、履行期や引渡金額の具体的な約定が不明であること等を理由に請求を棄却したため、上告人が上告した。
あてはめ
本件では、手形が満期に支払われたことで手形権利が消滅しており、被上告人の換金・引渡義務は責めに帰すべき事由により履行不能となったといえる。損害額については、上告人が振出人から人的抗弁を対抗される等の事情がない限り、手形の交換価値である額面相当額と解するのが相当である。また、委任契約における履行期等の約定については、手形の満期や額面から客観的に定まる側面がある。原審が、具体的約定の証拠がないとして直ちに請求を排斥したことは、審理不尽・理由不備の違法がある。
結論
被上告人の行為は換金委任に基づく債務不履行(履行不能)を構成し、上告人は原則として手形額面相当額の損害賠償を請求できる。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
手形や有価証券の換金委任における損害算定の基準を示す。債務不履行による損害額を「手形の交換価格(額面)」と結びつけた点に実務上の意義がある。答案上は、委任契約の受任者が目的物を流用した場合の損害賠償額の立証において、目的物の客観的価値(額面)を基礎とする論拠として活用できる。
事件番号: 昭和47(オ)75 / 裁判年月日: 昭和47年10月31日 / 結論: 棄却
取締役が会社の既存債務の支払について、約束手形を振り出し、右手形が不渡になっても、その振出以前より、会社の経営が行き詰り、資産もなく、右既存債務が債権者の度重なる催告にもかかわらず支払われず、かつ、支払われる見込みもなかつたときは、特段の事情のない限り、手形の不渡によつて右債権者は損害を蒙らない。