判旨
設立中の会社の代表者が、会社の設立を条件として設立後の営業に必要な財産を取得する契約(財産引受け)を締結した場合、定款にその記載がなければ、当該契約は設立後の会社に対して効力を有しない。
問題の所在(論点)
発起人が設立中の会社のために締結した、設立後の営業に用いるための財産取得契約(財産引受け)について、定款に記載がない場合でも設立後の会社にその効力が及ぶか。また、かかる行為が「設立のために必要な行為」として会社に当然に帰属するか。
規範
設立中の会社の発起人が、会社設立を条件として特定の財産を譲り受けることを約する売買契約を締結した場合、当該契約は実質的に財産引受け(会社法28条2号、旧商法168条1項6号)に該当する。したがって、当該事項が定款に記載されていない限り、設立後の会社に対してその効力は及ばない。また、設立後の会社に権利が帰属するためには、定款記載を具備するか、あるいは設立後に別途適法な権利移転行為(譲渡等)がなされる必要がある。
重要事実
株式会社Dの設立にあたり、発起人組合の代表者が、将来の材料置場および事務所用地とする目的で本件土地の売買契約を締結した(契約書上の買主は発起人F個人名義)。その後、株式会社Dは設立登記を完了したが、本件土地の取得契約について、旧商法168条1項6号に基づく定款への記載はなされておらず、また設立後に会社へ権利を移転させる特段の法律行為がなされた事実も認められなかった。それにもかかわらず、原審は当該契約が当然に設立後の会社に帰属すると判断した。
あてはめ
本件土地の取得は、設立後の会社の将来の営業に必要な財産の取得であり、会社設立の手続そのものに必要な行為(設立費用等)ではない。このような行為は「財産引受け」に該当し、濫用による会社財産の空洞化を防ぐべく、定款への記載が効力発生の要件となる。本件では定款記載の事実が確認されず、かつ設立後に会社が改めて権利を取得したという事情(譲渡契約等)も認められないため、当該契約の効果を当然に会社に帰属させることはできない。
結論
定款に記載のない財産引受けは、設立後の会社に対して効力を有しない。したがって、原審の判断には法令適用の誤りがある。
事件番号: 昭和33(オ)809 / 裁判年月日: 昭和36年9月15日 / 結論: 棄却
株式会社設立発起人組合の代表者が、設立後の会社の営業の目的たる映画館の敷地とするため土地を買入れる契約は、商法第一六八条第一項第六号にいう「会社ノ成立後ニ譲受クルコトヲ約シタル」場合に当り、原始定款に記載がなければ設立後の会社に対して効力を有しないと解するを相当とする。
実務上の射程
会社法28条2号の「財産引受け」の厳格な要件を再確認する判例である。答案上では、設立中の会社の行為の帰属を論じる際、①「設立に直接必要な行為」か「開業準備行為」かを区別し、②開業準備行為のうち財産引受けに該当する場合は、変態設立事項として定款記載がなければ会社に帰属しない(判例の立場)とする論理構成に用いる。
事件番号: 昭和42(オ)1317 / 裁判年月日: 昭和43年5月28日 / 結論: 棄却
財産引受が定款に記載がなく無効である場合には、会社側だけでなく、譲渡人もその無効を主張することができる。
事件番号: 昭和32(オ)795 / 裁判年月日: 昭和34年5月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産買入れの委任契約に基づき受任者が自己の名で取得した不動産の所有権は、特約により委任者に当然に帰属するとしても、その登記がない限り、委任者はその所有権の取得を第三者に対抗することができない。 第1 事案の概要:上告人は、受任者Dに対し、本件土地をDの名義で連合会から買い受けた後、上告人に名義を…
事件番号: 昭和32(オ)903 / 裁判年月日: 昭和36年4月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】意思表示の動機に重大な錯誤があり、その動機が意思表示に際して明示されていた場合には、法律行為の要素に錯誤があったものとして、当該意思表示は無効となる。 第1 事案の概要:被上告人(買主)は、上告人(売主)から農地を買い受け引渡しも受けていたが、当該土地が国に買収されると思い込み、売買契約の合意解約…