判旨
融資の担保として不動産を売り渡し、一定期間内に代金を支払えば物件を取り戻せるという「買戻約款付売買契約」の形式による譲渡担保を設定することは、民法579条以下の規定に基づく有効な契約方法である。
問題の所在(論点)
金銭消費貸借の担保目的で不動産の所有権を移転させるに際し、民法579条以下の買戻しの形式を利用した契約(譲渡担保の一種)が、実務上の有効な担保方法として認められるか。
規範
債務の担保を目的として、目的物の所有権を債権者に移転し、債務者が期限内に債務を弁済したときは目的物を取り戻すが、期限内に弁済がないときは債権者が確定的に所有権を取得するという形式(いわゆる売渡担保)において、民法579条以下の「買戻」の方式を用いることは、私的自治の範囲内として許容される。
重要事実
上告会社は、被上告人から200万円の融資を受けるに際し、本件建物を担保とするため、一旦「将来買戻約款付売渡契約をなす旨の予約」を締結した。その後、残金の受領と引き換えに、代金を200万円とし、期限(約2ヶ月後)までに代金を提供すれば買い戻せるが、提供がないときは買戻権を喪失し建物を明け渡す旨の特約を付した売買契約を締結した。上告会社は買戻代金の支払確保のため約束手形を振り出したが、期限までに支払いがなされなかった。
あてはめ
本件契約は、当初は消費貸借の形式を予定しつつ、最終的に買戻約款付売買の形式を選択したものであるが、これは「売渡担保」の方法としてなされたものといえる。譲渡担保の実行手法として民法579条以下の買戻しの方式を利用することは、大審院以来の判例によっても認められている。また、売買後も買主(債権者)が使用収益をせず、特約により利息に相当する授受がなされていたとしても、担保としての実態を反映しているに過ぎず、契約の有効性を妨げるものではない。
結論
本件買戻約款付売買契約は、売渡担保の方法として有効であり、期限までに代金提供がない以上、上告人は買戻権を喪失する。
事件番号: 昭和33(オ)44 / 裁判年月日: 昭和35年6月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】金銭借入の担保として不動産につき買戻特約付売買契約を締結し、売買代金と借入金債務を相殺して既存債務を消滅させる形式の契約は、一種の担保形式として有効である。また、不動産の評価額と売買代金に開きがあっても、直ちに公序良俗に反して無効となるわけではない。 第1 事案の概要:上告会社は、被上告人から20…
実務上の射程
譲渡担保(売渡担保)の構成として「買戻し」の規定が利用可能であることを明示した判例。答案上は、非典型担保の有効性や、買戻しの規定が債権担保目的で利用された場合の法的性質を論ずる際の根拠となる。ただし、現代の実務では清算義務(暴利行為の防止)が重視される点に留意が必要である。
事件番号: 昭和31(オ)773 / 裁判年月日: 昭和33年4月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法579条の要件を満たさない買戻しの特約であっても、公序良俗に反する等の事情がない限り、契約自由の原則に基づき有効である。また、事情変更の原則の適用には、当初の契約を維持することが信義則に著しく反するほどの重大な事情の変更が必要である。 第1 事案の概要:被上告人(売主)は、昭和20年4月19日…
事件番号: 昭和36(オ)675 / 裁判年月日: 昭和36年12月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者間に契約の成立を希望する意思の合致があったとしても、直ちに契約が成立したと認めることはできず、確定的に契約の締結に至ったか否かは、当時の実情や動機等の事実関係を総合して判断すべきである。 第1 事案の概要:上告人は、建物の所有者である被上告人に対し、今後半年から2年の間に当該建物を買い受ける…
事件番号: 昭和24(オ)201 / 裁判年月日: 昭和25年7月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債務者が弁済期に債務を履行しない場合に、担保物件の所有権を直ちに債権者に帰属させ、物件を明け渡す旨の合意(代物弁済予約)は、特段の事情がない限り有効である。書面上「売渡担保」との記載があっても、当事者の真意が代物弁済予約にあると認められる場合には、その合意に従った効力が認められる。 第1 事案の概…
事件番号: 昭和33(オ)186 / 裁判年月日: 昭和35年4月26日 / 結論: 破棄差戻
一 買戻の特約を登記しなかつた場合、不動産買戻権は売主の地位と共にのみ譲渡することができる。 二 買戻の特約を登記しなかつた場合における不動産買戻権の譲渡を買主に対抗するには、これに対する通知またはその承諾を必要とし且つこれをもつて足りる。