特許出願にあたつて提出される特許発明明細書の記載中に公知公用の部分が含まれていることを確定するのは証拠の解釈につき事実審裁判所の職権行使にほかならない。
特許発明明細書の記載中に公知公用の部分が含まれていることの確定は事実審の専権か。
旧特許法(大正10年法律96号)1条,旧特許法(大正10年法律96号)4条
判旨
特許権の権利範囲を決定するにあたり、明細書の記載から公知公用の部分を除外し、発明の技術的効果に結びつく本質的な部分(要部)を確定して判断すべきである。
問題の所在(論点)
特許発明の技術的範囲を画定する際、明細書の記載をどのように解釈すべきか。また、特許発明と対象製品の温度条件等の数値的相違が「単なる工程上の微差」といえるか、あるいは発明の要部を欠くものとして侵害を否定すべきかが問題となった。
規範
特許発明の技術的範囲(特許法70条1項参照)の画定に際しては、出願時の明細書の記載を基準としつつ、公知公用の技術を参酌して発明の要部(特許発明の技術的思想の本質的部分)を明らかにする必要がある。特許発明の構成要素のうち、発明特有の技術的効果に直結する温度条件等の核心的部分を「要部」と捉え、対象製品がこの要部と異なる構成を有する場合には、原則として権利範囲に属さない。
重要事実
上告人(特許権者)は、揚げ豆腐の製造方法に関する特許を有していた。本件発明は、第一次処理の油温を100〜120度、第二次処理を180度前後とすることを技術的特徴(要部)としていた。これに対し、被上告人の製造方法は、第一次処理が100度以下、第二次処理が200〜230度であった。上告人は、被上告人の方法が自社の特許権を侵害すると主張した。
事件番号: 昭和47(オ)659 / 裁判年月日: 昭和49年6月28日 / 結論: 棄却
特許権の侵害を事由とする損害賠償を求める訴においても、特許発明の技術的範囲を確定するについては、出願当時の技術水準を考慮すべきである。
あてはめ
本件発明の要部は、製造過程において従来より高温(100〜120度)の第一次処理を行うことで、第二次処理を通常より低温(180度)に抑えるという特定の温度条件にある。被上告人の方法は、第一次処理が100度以下、第二次処理が200〜230度であり、本件発明が目的とする「第二次処理の低温化」とは逆の構成をとっている。したがって、両者の油温の相違は単なる工程上の微差ではなく、発明の要部における本質的な相違であると評価される。
結論
被上告人の製造方法は本件特許発明の技術的範囲に属さない。したがって、特許権侵害は成立せず、上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は、クレーム解釈において「要部」概念を用いて権利範囲を実質的に画定する手法を示した。特に数値限定を伴う製法発明等において、単なる文言上の対比だけでなく、公知技術との比較から発明の核心(要部)を特定し、そこからの乖離を重視して非侵害を導く答案構成の参考となる。ただし、現在の実務(特許法70条)では文言解釈が原則であり、要部概念は均等論の第1要件等で議論される点に留意が必要である。
事件番号: 平成6(オ)2378 / 裁判年月日: 平成10年4月28日
【結論(判旨の要点)】特許発明の技術的範囲を確定するに際し、特許請求の範囲の記載に「付近」等の抽象的表現がある場合には、出願時の当業者の技術水準や、発明の詳細な説明に記載された作用効果を参酌して解釈すべきである。 第1 事案の概要:燻し瓦の製造法に関する特許権者である原告(上告人)が、被告(被上告人)の製造方法が特許を…
事件番号: 昭和39(オ)1469 / 裁判年月日: 昭和41年11月18日 / 結論: 棄却
実用新案法第二六条は特許法第七〇条を準用しているから、実用新案の技術的範囲、したがつてまたその権利の範囲は、登録請求の願書添付の明細書にある登録請求の範囲の記載に基づいて定められなければならないが、右範囲の記載の意味内容をより具体的に正確に判断する資料として、右明細書の他の部分に記載されている考案の作用効果を考慮するこ…
事件番号: 平成24(受)2658 / 裁判年月日: 平成27年6月5日 / 結論: 破棄差戻
物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているいわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合であっても,その発明の要旨は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として認定される。 (補足意見及び意見がある。)