判旨
特許発明の技術的範囲を確定するに際し、特許請求の範囲の記載に「付近」等の抽象的表現がある場合には、出願時の当業者の技術水準や、発明の詳細な説明に記載された作用効果を参酌して解釈すべきである。
問題の所在(論点)
特許請求の範囲に「〜付近」という不確実な多義的表現が含まれる場合、その技術的範囲をどのように解釈すべきか。発明の詳細な説明や作用効果をどの程度参酌できるかが問題となる。
規範
特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない(特許法70条1項)。もっとも、その記載のみで一義的に解釈できない語句については、発明の詳細な説明の記載(同条2項)及び図面を参酌し、特許出願時における当業者の技術水準や、当該発明の目的、作用効果を考慮して、その客観的意義を解釈すべきである。
重要事実
燻し瓦の製造法に関する特許権者である原告(上告人)が、被告(被上告人)の製造方法が特許を侵害するとして損害賠償を請求した。特許請求の範囲には、燻化時の窯内温度を「摂氏1000度ないし900度付近」とする旨の記載があった。原審は、この「付近」の意味について、詳細な説明等の記載から参酌すべき内容はないとし、数値の幅(100度)よりもかなり狭い範囲を指すと限定的に解釈して、被告の実施温度(約890〜820度)はこれに含まれないとして請求を棄却した。
あてはめ
本件発明の「付近」という構成は、未燃焼ガスの熱分解により炭素を瓦表面に沈着させるという作用効果を生ずるのに適した温度として採用されている。したがって、その意義の解釈には、出願時において右作用効果を生ずるのに適した温度に関する当業者の認識や技術水準を参酌することが不可欠である。原審は、詳細な説明に「付近」の意義を判断するに足りる作用効果の開示がないとするが、実際には在来の方法と遜色ない着色が生じるとの記載等があり、これらを参酌せずに「付近」の幅を限定した判断は特許法70条の解釈を誤ったものといえる。
結論
特許請求の範囲の記載のみから「付近」の幅を限定した原審の判断には違法がある。出願時の当業者の技術水準や作用効果を参酌して再審理させるため、破棄差戻しとする。
事件番号: 昭和33(オ)535 / 裁判年月日: 昭和38年6月25日 / 結論: 棄却
特許出願にあたつて提出される特許発明明細書の記載中に公知公用の部分が含まれていることを確定するのは証拠の解釈につき事実審裁判所の職権行使にほかならない。
実務上の射程
特許請求の範囲に「略」「約」「付近」などの数値範囲を広げる文言がある場合の解釈指針となる。形式的な文言解釈に陥らず、発明の目的・効果・当業者の常識に基づき、実質的な技術的範囲を画定すべきことを示した重要判例である。
事件番号: 平成4(オ)364 / 裁判年月日: 平成5年10月19日
【結論(判旨の要点)】特許権侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の確定について、出願過程等において特許権者が構成を制限したなどの特段の事情がない限り、明細書等の記載に基づいて客観的に画定されるべきである。 第1 事案の概要:特許権者(原告)は、インゴットの取付け位置に関する発明について特許権を有していた。被告が製造販売…
事件番号: 昭和50(オ)54 / 裁判年月日: 昭和50年5月27日 / 結論: 棄却
実用新案の明細書により当該実用新案の技術的範囲を確定するにあたつては、明細書中の「登録請求の範囲」の項記載の意味内容を具体的、正確に判断する資料として、右明細書の他の部分に記載された考案の構造及び作用効果を考慮することができる。