判旨
法人の代表者が同一である場合であっても、当該代表者が一方の法人の資格において知った事実が、当然に他方の法人における悪意(手形法17条但書)として認定されるわけではなく、個別の事実に照らして判断されるべきである。
問題の所在(論点)
手形法17条但書の適用において、法人の代表者が他方の法人の代表者を兼ねている場合、一方の法人において生じた事実を当然に他方の法人の代表者としての認識(悪意)として認定できるか。
規範
手形法17条但書にいう「債務者を害することを知りて」という悪意の有無は、手形取得時における法人の代表者の具体的な認識を基準に判断すべきである。法人の代表者が他方の法人の代表者を兼務している場合であっても、一方の資格で関与した事実を当然に他方の法人としての知得とみなすのではなく、事実上当該事実を認識していたか否かにより個別具体的に判断される。
重要事実
上告人(手形債務者)は、D社との間で本件手形の返還契約を締結していた。その後、被上告人(手形所持人)がD社から裏書譲渡により手形を取得したが、当時の被上告人の代表取締役Fは、D社の代表取締役も兼ねていた。上告人は、FがD社の代表者である以上、返還契約の存在を知り得たはずであり、被上告人は手形法17条但書の悪意の所持人に該当すると主張して、人的抗弁の切断を否定しようとした。
あてはめ
本件において、D社の専務取締役Eと上告人との間で手形返還契約が成立していた事実は認められる。しかし、被上告人の代表取締役であったFは、D社の代表取締役を兼務していたものの、本件返還契約の事実を具体的に知悉していたとは認められない。代表者が同一であるという形式的事実のみをもって、直ちに「事実上並びに法律上」悪意があったと判断しなければならない筋合はなく、Fが事実上これを知らなかった以上、被上告人に悪意があったとは認められない。
結論
被上告人に悪意があったとは認められないため、手形法17条但書は適用されず、人的抗弁は切断される。したがって、上告人の抗弁は排斥される。
実務上の射程
代表者兼務の事案において、法人の主観的態様を判断する際の基準を示す。答案上では、法人の悪意を認定するにあたり、代表者の認識を基準とする原則を維持しつつ、兼務という形式のみで当然に認識を擬制できないことを説明する際に活用できる。
事件番号: 昭和28(オ)509 / 裁判年月日: 昭和30年5月31日 / 結論: 棄却
約束手形の裏書譲渡を受けた者が、その取得に際し、右手形は売買代金債務の支払確保のため振出されたものであり、かつ右売買は売主の不履行により結局解消されるに至るべきことを熟知していた場合は、手形法第七七条、第一七条但書にいわゆる「債務者ヲ害スルコトヲ知リテ手形を取得シタルトキ」に該当する。