判旨
あらかじめ内容が確定している和解手続において、一方当事者が相手方の代理人に対して和解手続のための代理権を授与することは、民法108条が禁止する双方代理の法意に反せず、有効である。
問題の所在(論点)
あらかじめ合意された和解条項に基づく事務的な手続について、一方の当事者が相手方の代理人に代理権を授与する行為が、民法108条の禁止する双方代理に該当し、無効となるか。
規範
民法108条(自己契約及び双方代理の禁止)の趣旨は、代理人が本人と利益相反する地位に立つことで本人の利益を害することを防ぐ点にある。したがって、あらかじめ契約内容が具体的に確定しており、代理人の裁量の余地がなく、単に履行行為としての事務を行うにすぎない場合には、同条の禁止する双方代理には当たらない(同条ただし書の法意)。
重要事実
上告人は、相手方である被上告人との間で和解条項をあらかじめ了承していた。その上で、既に内容が取り決められた当該和解条項に基づき、和解手続を履践するための代理人の選任を、相手方(被上告人)の代理人である弁護士に委任した。その後、当該代理人を通じて和解が成立したが、上告人はこれが双方代理に該当し無効であると主張して争った。
あてはめ
本件において、上告人は和解内容を事前に了承しており、和解条項は既に確定していた。上告人が被上告人の代理人に委任したのは、この確定済みの条項に基づく「和解手続」という事務的な行為に限定されている。このような場合、代理人が裁量によって上告人の利益を不当に害するおそれはなく、実質的には債務の履行(同条ただし書)に準ずる行為といえる。したがって、民法108条の禁止する利益相反の状況にはない。
結論
本件和解は民法108条の法意に反するものではなく、有効に成立している。
実務上の射程
事件番号: 昭和33(オ)767 / 裁判年月日: 昭和35年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産登記手続において、代理人が本人及び相手方の双方を代理する場合であっても、それが既に成立している法律関係に基づく登記義務の履行であるときは、民法108条本文の禁止する双方代理には当たらない。 第1 事案の概要:上告人と被上告人の間の不動産取引に関連し、特定の書面(丙第2号証)が上告人の意思に基…
本判決は、外形上は双方代理であっても、当事者間に実質的な利益対立がなく、単なる形式的な事務手続を委任したにすぎない場合には、108条の禁止に触れないことを示した。答案上は、108条の趣旨である「利益相反の防止」から、本人の承諾や債務の履行に類する事情を指摘して適法性を導く際の論拠となる。
事件番号: 昭和35(オ)480 / 裁判年月日: 昭和38年2月21日 / 結論: 棄却
貸金請求事件における被告の訴訟代理人の和解の権限には、和解の一条項として、当該貸金債権の担保のため被告所有の不動産について原告に対し抵当権設定契約をなす権限も包含されるものと解するのが相当である。
事件番号: 昭和28(オ)1115 / 裁判年月日: 昭和30年3月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法定代理人である後見人から不動産の処分につき代理権を授与された復代理人が、その後代理人として売買契約を締結した場合、その売買の効果は本人に帰属する。 第1 事案の概要:上告人の法定代理人である後見人Eは、訴外Dに対し、本件不動産の処分に関する代理権を授与した。Dは、昭和23年2月20日、後代理人と…
事件番号: 昭和33(オ)79 / 裁判年月日: 昭和35年8月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本人が代理人に対して特定の法律行為(本件では不動産の売買契約)を行うための権限を授与していた場合には、当該代理人が本人の名において行った行為の効果は本人に帰属する。 第1 事案の概要:本件において、上告人の代理人であるDは、被上告人である宮城県との間で、上告人が所有する本件建物を売り渡す旨の売買契…
事件番号: 昭和31(オ)956 / 裁判年月日: 昭和35年3月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】特定の立木を代物弁済として提供する代理権や登記費用の負担特約を締結する権限があるからといって、当然にその土地自体の所有権を移転させる代理権まで認められるものではない。 第1 事案の概要:上告人らは、被上告人の代理人Dとの間で、本件山林の立木を債務の代物弁済として供する旨の合意をし、立木の所有権保存…