判旨
売主が地価の昂騰を理由に代金の増額を要求して代金の受領を拒絶し、契約の効力自体を否定した場合には、受領遅滞に陥ったものと解される。その受領遅滞後に生じた事情変更を理由として、契約の効力の否定や供託の有効性を争うことはできない。
問題の所在(論点)
売主が地価昂騰を理由に代金増額を求めて受領を拒絶した場合に、受領遅滞が成立するか。また、受領遅滞に陥った債権者が、その後の事情変更を理由に契約の解除や効力の否定を主張できるか。
規範
債権者が債務の履行を受けることを拒絶し、または受けることができない場合には、債権者は受領遅滞の責任を負う。債権者が受領遅滞に陥っている間は、その後に生じた事情の変更(地価の昂騰等)をもって、契約の維持が著しく不公平であるといった信義則上の主張をすることは許されない。
重要事実
売買契約の買主(被上告人)は、残代金の履行期において支払いの準備をし、登記手続をなすべき旨をしばしば申し入れた。これに対し、売主(上告人)は、短期間のうちに地価が昂騰したことを理由に代金の増額を要求し、従前の約定に基づく代金の受領を拒否した。さらに売主は、契約から約8ヶ月後には本件売買契約の効力自体を否定するに至った。その後、買主は代金を供託したが、売主は事情変更を理由にその有効性等を争った。
あてはめ
本件では、売主が約定代金以上の支払いを求め、適法な提供に対して受領を拒んだ事実は、債権者としての受領義務に違反するものである。特段の事情がない限り、短期間の地価昂騰によって当初の契約を維持することが直ちに債務の本旨に反するとはいえない。したがって、売主は遅くとも契約の効力を否定した時点(昭和21年11月)以降、受領遅滞に陥ったと認められる。受領遅滞に陥っている債権者は、自らの不協力によって契約関係を不安定にしている以上、その後に生じた事情変更を奇貨として契約の拘束力を否定することは、信義則上許されない。
結論
売主は受領遅滞に陥っており、その後に生じた事情変更を理由に供託の有効性や契約の持続関係を争うことはできない。したがって、買主の登記請求は認められる。
事件番号: 昭和33(オ)345 / 裁判年月日: 昭和34年8月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告審において、原審で主張していなかった新たな事実上の主張を基礎として原判決の違法をいうことは、民事訴訟の手続上許されない。 第1 事案の概要:上告人(賃借人)は、被上告人(賃貸人)からなされた月額5,000円の延滞賃料の催告に基づく契約解除を争っていた。上告人は、上告審において、当該催告より以前…
実務上の射程
事情変更の原則を主張する側が受領遅滞などの責めに帰すべき事由を有している場合、その主張が制限されることを示した事例である。答案上は、契約解除の効力や履行遅滞の成否が争われる場面で、債権者側の受領拒絶という先行行為がある場合の再反論として活用できる。
事件番号: 昭和33(オ)568 / 裁判年月日: 昭和34年9月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法188条による権利の適法推定は、占有者が所有者に対して占有権原を主張する場合には適用されず、所有者に対抗できる正当な権原があることを別途立証する必要がある。 第1 事案の概要:上告人(占有者)は、本件土地を占有していたところ、被上告人(所有者)から土地の返還を求められた。上告人は、自身に借地権…
事件番号: 昭和33(オ)717 / 裁判年月日: 昭和35年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地をその上に建物を所有して占有する者は、民法188条による権利適法推定を受けないため、土地の占有権原として使用貸借の成立を主張する者がその挙証責任を負う。 第1 事案の概要:上告人は、本件土地上に建物を所有して占有していた。被上告人(土地所有者)からの土地明け渡し請求に対し、上告人は当該土地の使…
事件番号: 昭和33(オ)26 / 裁判年月日: 昭和34年7月2日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】売買の予約の成立を認めるためには、その前提となる事実について証拠に基づき合理的に認定する必要があり、供述内容が予約ではなく本契約の成立を指している場合には、予約の成立を認めることはできない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)が上告人(被告)から土地200坪を単価140円で購入したと主張し、売買一…
事件番号: 昭和33(オ)683 / 裁判年月日: 昭和35年3月1日 / 結論: 棄却
他人の不動産を占有する正権原があるとの主張については、その主張をする者に立証責任があると解すべきである。