他人の不動産を占有する正権原があるとの主張については、その主張をする者に立証責任があると解すべきである。
他人の不動産を占有する正権原の立証責任。
民法188条
判旨
不動産所有者からの明渡請求に対し、占有者が正権原を主張する場合、民法188条による占有者の権利推定規定を援用して立証責任を免れることはできず、占有者自ら正権原を立証すべきである。
問題の所在(論点)
不動産の占有者が、所有者から明渡請求を受けた際、民法188条に基づき「自己の占有権原(使用借権等)が適法に存在する」との推定を受けることができるか、すなわち正権原の立証責任が誰にあるか。
規範
不動産所有権に基づく返還請求訴訟において、占有者が正権原(賃借権や使用借権等)の存在を主張する場合、その正権原についての立証責任は占有者側にある。民法188条の「占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する」との規定は、所有者本人に対する関係においては、占有者が自己の正権原を対抗するために援用することはできない。
重要事実
被上告人(原告)は本件土地の所有権を有し、その登記も経由していた。本件土地上には訴外D所有の建物が存在し、上告人(被告)がこれに居住して敷地を占有していた。上告人は、Dが被上告人から土地を使用貸借しており、自分はDから建物を賃借したため適法な占有権原があると主張したが、被上告人はこれを争った。原審は、上告人において正権原の証拠がないとして請求を認容したため、上告人が民法188条の援用を主張して上告した。
事件番号: 昭和33(オ)717 / 裁判年月日: 昭和35年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地をその上に建物を所有して占有する者は、民法188条による権利適法推定を受けないため、土地の占有権原として使用貸借の成立を主張する者がその挙証責任を負う。 第1 事案の概要:上告人は、本件土地上に建物を所有して占有していた。被上告人(土地所有者)からの土地明け渡し請求に対し、上告人は当該土地の使…
あてはめ
本件において、被上告人の土地所有権および登記は確定している。これに対し、上告人が主張する「使用借権に基づく占有権原」は、所有者である被上告人に対抗すべき抗弁事実である。民法188条は占有の事実から権利を推定する規定であるが、本件のような所有者対占有者の関係においては、所有権の存在が証明されている以上、占有者がそれに対抗する適法な権原(使用借権の連鎖)があることを自ら立証しなければならない。したがって、上告人が188条を援用して立証責任の転換を求めることは認められない。
結論
上告人の正権原の主張については、上告人に立証責任がある。上告人は民法188条を援用して自己の正権原を所有者に対抗することはできず、立証が尽くされない限り明渡しを拒めない。
実務上の射程
所有権に基づく返還請求の要件論において、占有者の「占有権原」が抗弁(権利抗弁)であることを裏付ける基本判例である。答案上は、民法188条が不動産(特に登記がある場合)や所有者との直接の関係では適用が制限されることを示す際に活用する。
事件番号: 昭和35(オ)460 / 裁判年月日: 昭和35年9月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法188条による権利の推定は、占有者とその占有の伝来した前主との間には及ばない。したがって、他人の所有地を占有する者が正権原(賃借権等)を主張する場合、その立証責任は占有者側にある。 第1 事案の概要:被上告人(土地所有者)が上告人(占有者)に対し、所有権に基づき建物の収去と土地の明渡しを請求し…
事件番号: 昭和33(オ)568 / 裁判年月日: 昭和34年9月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法188条による権利の適法推定は、占有者が所有者に対して占有権原を主張する場合には適用されず、所有者に対抗できる正当な権原があることを別途立証する必要がある。 第1 事案の概要:上告人(占有者)は、本件土地を占有していたところ、被上告人(所有者)から土地の返還を求められた。上告人は、自身に借地権…
事件番号: 昭和33(オ)279 / 裁判年月日: 昭和33年7月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の明渡請求が権利の濫用(民法1条3項)に当たるか否かは、当該請求を認めることが社会通念上著しく正当性を欠くといえるか等の事実関係を総合考慮して判断すべきである。 第1 事案の概要:上告人(被告)に対し、被上告人(原告)が本件建物の明渡しを求めた事案である。原審において認定された事実関係の詳細…
事件番号: 昭和33(オ)1024 / 裁判年月日: 昭和35年9月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地所有者が土地の使用を容認していたとはいえない状況において、当該土地の明渡し等を求める請求は、特段の事情がない限り権利の濫用(民法1条3項)には当たらない。 第1 事案の概要:上告人(被告)が本件土地を使用していたところ、被上告人ら(原告)が土地所有権に基づき本訴請求(明渡し等)を提起した。上告…