判旨
不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求において、夫権侵害を理由とする慰謝料が認められるためには、妻の貞操を侵したか、またはそれと同程度の違法な行為の存在が立証される必要がある。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく損害賠償請求において、具体的な貞操侵害またはそれに準ずる不法な行為が証拠上認められない場合であっても、婚姻関係の平穏が害されたという結果のみをもって、夫権侵害による不法行為の成立を認めることができるか。
規範
配偶者の権利(夫権)侵害を理由とする不法行為が成立するためには、他方の配偶者の貞操を犯した事実、または少なくともこれと同程度に貞節を要求し得る権利を侵害したと認められる客観的な事実(不法行為の存在)が、証拠に基づき認定されなければならない。
重要事実
上告人(夫)は、被上告人(男)が自己の妻Dに対し、情交を迫りこれを遂げ、または遂げようとして未遂に終わったことにより、夫権を侵害され精神的損害や社会的信用の低下等を被ったと主張して損害賠償を求めた。しかし、原審は証拠(甲5号証等)の信用性を否定し、情交やそれに類する事実を認定しなかった。これに対し上告人は、情交事実がなくても本件の一連の経過により婚姻関係が破壊された以上、夫権侵害が成立すべきであると主張して上告した。
あてはめ
本件において、上告人が主張する「被上告人が妻Dに情交を迫った」という具体的事実は、証拠上全く認められない。原審が示した「貞操を犯したか、またはそれと同程度の行為」という基準は、不法行為の成立に不可欠な違法行為の存否を判断するためのものであり、不当ではない。上告人が主張する「名誉や婚姻関係の破壊」という結果は、前提となる具体的ない不法行為の存在が立証されない限り、法的な損害賠償の対象とはなり得ない。
結論
上告人の主張する具体的行為(情交等)の存在が認められない以上、不法行為は成立せず、請求を棄却した原判決に法令違反はない。
事件番号: 昭和34(オ)15 / 裁判年月日: 昭和35年11月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不法行為に基づく損害賠償請求において、過失相殺の抗弁が認められるためには、証拠によって相手方の過失が確実に認定される必要がある。 第1 事案の概要:上告人の運転するオートバイと、右折しようとした被上告人の車両が衝突した事案。第一審および原審は、被上告人が右折時に約200メートル前方に上告人のオート…
実務上の射程
本判決は、不法行為(特に配偶者権侵害)における「違法な加害行為」の立証の重要性を示している。実務上は、単に「関係が壊れた」という結果から逆算するのではなく、不貞行為またはそれに準ずる客観的態様(親密な交際等)を具体的に主張・立証する必要があることを示唆するものである。
事件番号: 昭和31(オ)1015 / 裁判年月日: 昭和35年9月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】告訴・告発等の申告が不法行為を構成するためには、申告者が相手方を犯人と信じて申告するにつき過失があったといえることが必要である。 第1 事案の概要:上告人(原告)が被上告人(被告)から、ある被疑事件の犯人であるとして警察官に申告された。これに対し上告人は、当該申告が不当であり名誉を毀損されたとして…