判旨
無権代理行為が行われた後に、本人が無権代理人の個人的責任を免除する趣旨で了解の言辞を述べたとしても、それだけでは無権代理行為を追認したことにはならない。
問題の所在(論点)
本人が無権代理人の行為を「了解した」と述べるなど、その責任を免除する趣旨の意思表示をした場合、それが直ちに民法113条1項の追認に該当するか。
規範
無権代理行為の追認(民法113条1項)が認められるためには、本人がその行為の効果を自己に帰属させる意思(追認の意思表示)を明確に表示することが必要である。単に無権代理人の個人的な不法行為責任を免除・宥恕する趣旨の意思表示がなされたに過ぎない場合には、無権代理行為そのものの効果を認める追認の意思表示があったとは認められない。
重要事実
無権代理人Fが、本人D及びその母Eに無断で判示の行為(無権代理行為)を行った。その後、Fの懇請を受けたD及びEは、Fがなした行為を了解する旨の言辞を述べた。しかし、この言辞はFが不法になした行為に対する個人的責任を免除する趣旨で行われたものであった。
あてはめ
本件において、Dらが述べた「了解した」との言辞は、Fの懇請に応じてなされたものであり、あくまでFが勝手に行った不法な行為に対する個人的な責任を免除する趣旨に過ぎない。この事実以外に、DらがFの無権代理行為そのものの効果を自己に帰属させる、すなわち追認する旨の意思表示をした事実は確認できない。したがって、法的効果としての追認の存在は否定される。
結論
無権代理行為の追認があったとは認められず、本件上告は棄却される。本人は当該無権代理行為の責任を負わない。
実務上の射程
事件番号: 昭和39(オ)922 / 裁判年月日: 昭和42年1月12日 / 結論: 棄却
競買の申出の追認は、競売事件の完結後でも、有効にすることができる。
追認の有無が争われる場面において、本人の言動が「無権代理人に対する宥恕(個人的な許し)」なのか「法律効果の帰属を認める追認」なのかを区別する実務上の指針となる。答案上では、追認の成否を検討する際に、本人の主観的意図や文脈を重視し、単なる感情的な了解や責任免除では足りないことを論証する際に活用できる。
事件番号: 昭和36(オ)1283 / 裁判年月日: 昭和39年3月12日 / 結論: 棄却
弁論の全趣旨が何をさすかを具体的に判文に説示する必要はない。
事件番号: 昭和42(オ)1391 / 裁判年月日: 昭和45年12月24日 / 結論: 破棄差戻
無権代理人甲が乙の代理人と称して丙と締結した抵当権設定契約を乙が追認したのち、甲が乙の代理人と称して丁と抵当権設定契約を締結した場合において、丁が甲に乙を代理して右抵当権設定契約をする権限があると信ずべき正当の事由を有するときは、乙は、民法一一〇条および一一二条の類推適用により、甲のした抵当権設定契約につき責に任じなけ…
事件番号: 昭和33(オ)79 / 裁判年月日: 昭和35年8月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本人が代理人に対して特定の法律行為(本件では不動産の売買契約)を行うための権限を授与していた場合には、当該代理人が本人の名において行った行為の効果は本人に帰属する。 第1 事案の概要:本件において、上告人の代理人であるDは、被上告人である宮城県との間で、上告人が所有する本件建物を売り渡す旨の売買契…
事件番号: 昭和31(オ)1104 / 裁判年月日: 昭和32年11月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条の表見代理が成立するためには、本人が相手方に対し、基本代理権を授与したという事実が認められる必要がある。本人が代理権を全く授与しておらず、印章も無断で使用された場合には、同条の適用の余地はない。 第1 事案の概要:被上告人の母Dが、被上告人の不在中にその印章を無断で使用し、借財およびこ…