弁論の全趣旨が何をさすかを具体的に判文に説示する必要はない。
弁論の全趣旨の判示方法。
民訴法191条
判旨
本人が無権限者に自己の名称を冒用させたと認められない場合、無権限者が本人を僣称(冒用)して行った法律行為の効力は本人に帰属せず、表見代理の規定の適用も否定される。
問題の所在(論点)
無権限者が本人を僣称(冒用)して契約を締結した場合に、民法110条等の表見代理の規定を適用して本人にその効果を帰属させることができるか。
規範
無権限者が本人になりすまして法律行為を行う「名義冒用(僣称)」の事案において、民法110条等の表見代理の規定が適用されるためには、少なくとも当該無権限者に何らかの基本代理権が存在するか、または本人がその名称の使用を許諾・放置したなどの帰責事由が認められ、かつ相手方がその者を本人自身であると誤信したことに正当な理由があることが必要となる。
重要事実
訴外Dは、被上告人(本人)の印顆を勝手に持ち出し、別人を被上告人の身代わりとして同行させて改印届を提出した。その上で、Dは自らが被上告人本人であると僣称し、上告人(相手方)との間で本件取引(本件登記の原因関係となる契約)を行った。当時、被上告人とDとの関係は疎遠になっており、対立反目する状況にあった。上告人の代表者は、Dを被上告人本人であると誤信して取引を行ったが、原審はこれを重大な過失に基づくものと判断した。
事件番号: 昭和28(オ)361 / 裁判年月日: 昭和31年5月22日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】世帯主として家政を一切管理し、過去にも同種の不動産売却及び登記手続を支障なく行っていた長男による無権代理行為について、相手方が本人に直接確認しなかったとしても、代理権があると信ずべき正当な理由(民法110条)があるといえる。 第1 事案の概要:70歳の老齢である本人(被上告人)と同居する40歳超の…
あてはめ
本件において、訴外Dは代理人として振る舞ったのではなく、被上告人本人を僣称して取引を行っている。原審が適法に確定した事実によれば、Dは印顆を「ほしいままに持ち出し」ており、被上告人がDに対して自己の名義を使用することを許諾した事実は認められない。また、被上告人とDは対立関係にあり、本人がDに代理権を授与した形跡(基本代理権)も存在しない。したがって、Dの行為は単なる無権限者による名義冒用にすぎず、代理行為としての性質を欠く。さらに、上告人がDを本人と誤信した点についても、過失があると判断されており、表見代理を認める余地はない。
結論
無権限者が本人を僣称して行った取引の効果は、被上告人本人には及ばない。民法110条、112条等の表見代理の規定を適用する必要はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は、いわゆる「名義冒用」事案における表見代理の適用の限界を示したものとして、実務上、民法110条の類推適用の可否を検討する際の前段階として重要である。答案上では、①本人を僣称した「名義冒用」か「代理人の名による顕名」かを区別し、②名義冒用の場合には本人の帰責性(名義使用の許諾や放置)を重視して、110条の類推適用の可否を論じる際の指針とする。
事件番号: 昭和33(オ)800 / 裁判年月日: 昭和35年2月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】他人に信用を得させる目的で、単に見せるためだけに登記権利書と印鑑を貸与したに過ぎない場合、何ら代理権を授与したものとは認められず、表見代理の成立も否定される。 第1 事案の概要:被上告人は、訴外Dから「E株式会社に対する信用を得るために、単に同会社に見せるだけ」という目的で、本件土地の登記権利書と…
事件番号: 昭和33(オ)251 / 裁判年月日: 昭和36年1月17日 / 結論: 棄却
病身の夫が家族との不和と療養の関係からさして遠方でない土地に別居中、妻が無断で夫の印章を偽造し、夫の代理名義で夫所有の土地家屋を代金三一〇万円で売却した場合、交渉の行われた場所が当該の家屋であり、家族の収入は妻名義でなす貸間収入で賄われており、成人した子供達が交渉の際同席する等、一応妻に代理権があると信じさせるような事…
事件番号: 昭和36(オ)78 / 裁判年月日: 昭和38年1月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条の表見代理が成立するためには、相手方が代理権があると信じ、かつ信ずるにつき正当の事由があることを具体的に主張する必要があり、単に代理権があると信じていたという事実の主張のみでは足りない。 第1 事案の概要:上告人らは、被上告人B1がB2を代理して消費貸借契約や抵当権設定、代物弁済予約を…