判旨
主債務者が無権利の商品に担保権を設定したため、債権者が当該担保から回収できず保証人に履行を求めた場合でも、信義則違反には当たらない。また、担保の存在が保証契約の要素であると認められない限り、錯誤による無効(現行法上の取消し)も認められない。
問題の所在(論点)
主債務者が無権利の物件に担保を設定した結果、債権者が保証人に対して履行を請求することが、(1)保証契約の要素の錯誤、または(2)信義則違反を構成するか。
規範
1. 契約の要素に錯誤があるというためには、特定の事情(本件では物的担保の存在)が契約締結の前提条件として欠くべからざるものであったと認められる必要がある。 2. 債権者が担保権を行使できないことによって保証人に履行を求めることは、その原因が主債務者の虚偽にある場合、直ちに信義則に反するものとはいえない。
重要事実
主債務者Dは、既に所有権を失っていた貨物自動車について、その事実を秘して債権者(被上告人)との間で担保差入契約を締結した。その後、債権者は担保権を行使できなくなったため、連帯保証人(上告人)に対して債務の履行を求めた。これに対し、連帯保証人は「担保の存在が保証契約の要素であった」とする錯誤の主張や、債権者の請求が「信義則に反する」との抗弁を提出した。
あてはめ
1. 錯誤について:本件連帯保証契約において、特定の物的担保が存在することが契約の要素であったと認めるに足りる証拠はない。したがって、担保の不存在を理由に契約の効力を否定することはできない。 2. 信義則について:担保権が行使不能となった原因は、主債務者Dが所有権の喪失を秘して担保差入を行ったという点にある。債権者がこの事情によって担保から回収できず、やむを得ず保証人に履行を求めることは、債権者の帰責性が乏しく、信義則違反(民法1条2項)とは評価されない。
結論
連帯保証人の錯誤および信義則違反の主張は認められず、債権者の保証債務履行請求は認められる。
実務上の射程
保証人が「担保があるから保証した」と主張しても、それが契約内容として明示的・黙示的に合意されていない限り、要素の錯誤(現行法上の動機の表示による取消し)は認められにくい。また、主債務者の不正による担保不成立の不利益を、当然に債権者に転嫁することはできないことを示す。
事件番号: 昭和29(オ)93 / 裁判年月日: 昭和31年9月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】事実認定において、関連する刑事判決の確定等の事情があったとしても、原審が諸般の証拠を検討して連帯保証の事実を認定した過程に、審理不尽等の違法があるとはいえない。 第1 事案の概要:被上告人がDに対して有する貸金債権について、上告人が連帯保証をしたかどうかが争われた事案。上告人は、Dに対して刑事判決…