判旨
当事者が主張していない表見代理の成否について、裁判所が職権で審理・判断しなかったとしても、審理不尽の違法とはならない。
問題の所在(論点)
当事者が表見代理の主張をしていない場合において、裁判所がその点について審理・判断を行わないことが、審理不尽の違法(弁論主義違反)となるか。
規範
弁論主義の原則に基づき、主要事実は当事者の主張がなければ裁判の基礎とすることはできない。民法上の表見代理についても、その成立を基礎付ける事実の主張は当事者が自ら行うべきものであり、裁判所が釈明権の行使等を超えて職権で審理・判断する義務はない。
重要事実
上告人は、訴外Eらの行為によって抵当権設定等の法律効果が生じていると争ったが、第一審および控訴審において表見代理の成立を具体的に主張しなかった。原審は、請求原因事実である抵当権設定契約の存在を否定する判断を示したが、表見代理の成否については審理を行わなかった。これに対し上告人は、裁判所が表見代理について審理を尽くさなかったことは審理不尽の違法にあたると主張して上告した。
あてはめ
本件訴訟において、上告人の側からは訴外Eらの行為についていわゆる表見代理の主張はなされていなかった。弁論主義の下では、判決の基礎となる主要事実の提示は当事者の責任である。本件において表見代理の主張がなされていない以上、裁判所が自らこの点を取り上げて審理する義務は認められない。したがって、原審がこの点について審理しなかったことに、上告理由にいうところの違法があるとはいえない。
結論
表見代理の主張がない以上、原審がこれについて審理しなかったことに違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
弁論主義の第一テーゼ(主張責任)が表見代理等の抗弁事項にも適用されることを再確認する事案。答案上では、予備的・選択的主張が漏れている場合に裁判所がどこまで介入すべきか(釈明義務の限界)という文脈で、当事者の主張責任を基礎付ける判例として引用し得る。
事件番号: 昭和33(オ)329 / 裁判年月日: 昭和34年4月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者間において成立につき争いがない証拠については、裁判所がそのまま事実判断の資料として採用しても、手続上の違法は認められない。 第1 事案の概要:上告人は、原審が甲第1号証を事実判断の資料とした点に違法があると主張したが、当該証拠は記録上、当事者間においてその成立につき争いがなかったものである。…