判旨
詐害行為取消権の行使において、目的物が不可分な一個の不動産である場合には、不動産の価格が被担保債権額を超過していても、債権保全のために当該売買契約を全部的に取り消すことができる。
問題の所在(論点)
詐害行為の目的物が不可分な一個の不動産である場合において、不動産の価格が債権額を超過していても、売買契約の全部を取り消すことができるか。民法424条における取消範囲の限定の可否が問題となる。
規範
詐害行為取消権(民法424条1項)の行使範囲は、原則として債権者の債権額に制限される。しかし、目的物が一個の建物として登記されている不動産のように、物理的・法律的に不可分なものである場合には、債権保全を目的とする限り、契約の全部を取り消すことが可能である。この場合、一部取消しを求める必要はない。
重要事実
債権者(被上告人)が、債務者の行った不動産の売買契約を詐害行為として取り消すよう求めた事案。当該不動産は、登記簿上一欄に一個の建物として登記されていた。上告人(受益者)は、不動産の価格が被担保債権額(詐害債権額)を超過していることを理由に、取消しの範囲を限定すべきである旨を主張した。
あてはめ
本件不動産は、登記簿上一欄に一個の建物として登記されており、その性質上、不可分なものとして扱われるべきである。したがって、不動産の価格が債権額を超過していたとしても、債権を保全するためには当該不動産を目的とする売買契約を全体として取り消すことが必要かつ正当である。原審が「保全のため必要な部分に限り」と判示したのは、部分的取消しを意味するのではなく、一個の不動産に対する契約を全部的に取り消す趣旨であると解される。
結論
一個の不動産を目的とする売買契約は、債権額を超過していても全部的に取り消すことができる。本件売買契約の全部取消しを認めた原判決は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
不可分な目的物(不動産等)を対象とする詐害行為については、債権額による範囲の限定が及ばず、全部取消しが可能であることを示す。答案上は、金銭債権や可分な動産の場合との対比で、目的物の性質に応じた取消範囲を決定する際の根拠として用いる。
事件番号: 昭和38(オ)741 / 裁判年月日: 昭和40年10月15日 / 結論: 破棄差戻
一 抵当権が設定してある家屋を提供してなされた代物弁済が詐害行為となる場合に、その取消は家屋の価格から抵当債権額を控除した残額の部分に限つて許されると解すべきである。 二 前項の場合において、取消の目的物が一棟の家屋の代物弁済で不可分のものと認められるときは、債権者は一部取消の限度で価格の賠償を請求する外はない(昭和三…
事件番号: 昭和38(オ)539 / 裁判年月日: 昭和41年2月24日 / 結論: 棄却
売買を詐害行為として取り消すべき場合において、その目的物件が一棟の建物で不可分のときには、一部取消の限度において、その価格の賠償を請求するの外なく、右目的物件の所有権の移転登記の抹消登記請求をすることはできない。(大法廷判決昭和三六年七月一九日、民集一五巻七号一八七五頁参照)