判旨
農地の買収処分において、買収対象が具体的にどの区域であるかが客観的に明らかであり、かつ処分庁および被処分者がそれを容易に推知できる場合には、買収対象の特定に欠けるところはない。
問題の所在(論点)
農地買収処分において、図面と現地の不一致等がある場合に、買収対象となる土地が「特定」されているといえるための要件が問題となる。
規範
行政処分における対象の特定は、処分の性質に照らし、具体的にどの範囲が対象となっているかが客観的に明らかであれば足りる。処分書等の記載自体から、処分機関および被処分者がその対象地域を容易かつ明確に推知し得る状態にあれば、処分の特定に欠けることはない。
重要事実
上告人が所有し、訴外人が大正3年頃から昭和21年頃まで小作していた農地(2反7畝28歩のうちの1反7畝28歩)について農地買収処分がなされた。上告人は、買収計画に添付された図面が現地や土地台帳等と一致せず、買収農地が特定されていないと主張して処分の効力を争った。
あてはめ
本件買収対象の一反七畝二八歩は、訴外人が長年にわたり小作してきた特定の10枚の田であった。本件買収計画に対する異議や訴願の経過を考慮すると、所有者である上告人はどの区域が買収されるかを十分に了知していたといえる。また、買収令書の記載から、買収機関である知事も上告人も、対象が右10枚の田であることを容易かつ明確に推知し得た。したがって、図面上の不一致等があったとしても、事実上および法律上の特定に欠けるところはないと解される。
結論
本件買収農地は特定されている。したがって、対象の不特定を理由とする上告人の主張は採用できず、本件買収処分は有効である。
実務上の射程
事件番号: 昭和33(オ)39 / 裁判年月日: 昭和35年9月27日 / 結論: その他
一 土地台帳の記載に誤りがあるものとして正規の手続によりそれが訂正された場合には、たとえ、右訂正が農地の買収に関する訴訟の係属後であつても、地主の保有小作地の面積の計算については、訂正後の台帳によるべきである。 二 一筆の農地の地積中畦畔の面積の占める割合が三分の一を越える程度に過大である場合には、地主の保有小作地の面…
行政処分の「特定」の程度に関する判断枠組みを示すものである。登記簿や図面との形式的な一致よりも、処分の経緯や関係者の認識から対象が客観的に識別可能かという実質的観点を重視する。答案上は、記載の誤記・瑕疵がある処分の効力を論じる際の、特定充足性の判断基準として活用できる。
事件番号: 昭和33(オ)1084 / 裁判年月日: 昭和35年11月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自作農創設特別措置法における農地買収令書の交付に代わる公告の適法性は、農地買収の急速遂行の必要性や当時の交通事情等を総合考慮して判断すべきであり、知事が相当な調査を尽くしても所有者の住所が判明しない場合には、公告をもって令書交付に代えることができる。 第1 事案の概要:上告人はブラジルに在住してい…
事件番号: 昭和32(オ)116 / 裁判年月日: 昭和33年11月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分に瑕疵がある場合でも、その後に正当な手続を経て瑕疵が補完され、処分時において適法な状態が確保されているならば、当該処分は有効なものとして存続し得る。 第1 事案の概要:農地委員会が土地の買収計画を定め、異議申立を却下した後、上告人は県農地委員会へ訴願を提起した。県農地委員会は法定期間経過後…
事件番号: 昭和28(オ)657 / 裁判年月日: 昭和30年4月26日 / 結論: 破棄差戻
登記簿上の所有者を所有者としてした農地買収処分は、真の所有者がこれを知りまたは知り得べき状態にあつたにかからず、不服申立の方法を採らなかつた場合は、当然には無効ではない。
事件番号: 昭和35(オ)526 / 裁判年月日: 昭和36年5月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分の取消訴訟において、処分庁は処分の適法性を基礎付ける法律要件について主張立証責任を負うが、相手方が争わない事項についてまで主張立証を尽くす必要はない。また、一審・原審において主張しなかった新たな事実関係に基づく違法事由を、上告審で主張することは許されない。 第1 事案の概要:上告人(所有者…