判旨
商標権は、商標権者がその営業を廃止したときは、旧商標法13条(現行法の解釈においても同様)により当然に消滅し、たとえ商標登録の抹消がなされていなくても、その後に営業廃止前の商標権を譲り受けることはできない。
問題の所在(論点)
商標権者が営業を完全に廃止した場合、商標登録が抹消されていなくても商標権は消滅するか。また、消滅した商標権の譲渡は有効か。
規範
商標権は営業とともにのみ譲渡できるという付随性に鑑み、商標権者がその営業を廃止した場合には、当該商標権は法律上当然に消滅する。この消滅の効果は、商標原簿における登録の抹消という形式的要件を待たずに発生する。
重要事実
D社は昭和18年に解散決議を行い清算手続に入った。清算人が清算事務完了を報告した昭和21年2月時点では、タオルの製造・加工に関する全営業を廃止していた。その後、昭和25年3月になり、上告人がD社から本件商標権を譲り受けたとしてその効力を主張したが、D社は営業廃止から約4年間、営業再開の決議等も行っていなかった。
あてはめ
D社は昭和21年の清算事務完了報告時までに全営業を廃止しており、その後4年間も営業再開の事実がない。したがって、D社の商標権は昭和21年時点で営業の廃止により当然に消滅している。商標原簿に登録が残っていたとしても、実体法上の権利は既に存在しないため、昭和25年に行われた譲渡契約によって権利を取得することはできない。
結論
商標権者が営業を廃止したときは商標権は消滅するため、その後の譲渡は無効である。登録の抹消がなくても、裁判所は営業廃止による消滅を判断できる。
実務上の射程
商標権の「営業付随性」を前提とした判断であり、現行法下(商標法24条の2等による自由譲渡性の承認後)では、営業廃止が直ちに権利消滅に直結するわけではない点に注意を要する。ただし、登録異議申し立てや無効審判の文脈で、権利の存続性や主体性を争う際の歴史的・基礎的理論として参照される。
事件番号: 昭和38(オ)491 / 裁判年月日: 昭和39年11月26日 / 結論: 棄却
甲乙双方の同一内容の標章を有する二つの商標権が登録されている場合には、右標章を使用している甲から乙の商標登録の無効審判が特許庁に請求され、乙の商標登録を無効とする審決に対し乙から右審決取消の訴が提起され、その訴訟が繋属中であつても、前記標章を現に使用している乙は、甲に対し、甲の商標権が営業廃止により消滅したとして、右商…
事件番号: 昭和40(行ツ)60 / 裁判年月日: 昭和43年11月5日 / 結論: 棄却
旧商標法(大正一〇年法律第九九号)第一二条第一項にいう商標権をその営業とともに移転するとは、商標権の譲渡人が従来その商標を使用した指定商品の営業において以後これを使用せず、譲受人がその商標を使用して譲渡人と同様の指定商品の営業をなしうる状態を現出すれば足り、その譲渡される商標権とともにこれを行使していた範囲の営業がこと…
事件番号: 昭和33(オ)495 / 裁判年月日: 昭和37年1月16日 / 結論: 棄却
原判決引用の第一審判決の認定事実関係のもとで、当該会社が二年以上商号を使用しなかつたことに正当事由がないとして、その商号権の消滅を判断したことは是認できる。
事件番号: 昭和34(オ)832 / 裁判年月日: 昭和37年2月22日 / 結論: 棄却
商標権者が単に経済上の理由から事業を中止したに過ぎず、営業を廃止する主観的意図が認められない場合には、商標法(昭和三四年改正前)の営業廃止にあたらない。