判旨
上告審が「原判決の証拠によれば認定が可能である」と判示することは、原判決の事実認定に法則違反等の違法がないと判断した趣旨であり、自ら事実認定を行うものではないため、判断遺脱の再審事由には当たらない。
問題の所在(論点)
上告審が原判決の事実認定の妥当性を「認定が可能である」と表現して維持した場合や、憲法違反と主張された訴訟法違反に対し訴訟法上の判断のみを示した場合に、判断の遺脱という再審事由が認められるか。
規範
上告裁判所は法律審として原判決が確定した事実に拘束される(民訴法321条1項参照)。したがって、上告審は原審の事実認定について、手続の適法性、審理不尽の有無、論理法則・経験則違反の有無を審理判断できるにすぎず、自ら事実認定を行う立場にはない。また、実質的に単純な訴訟法違反の主張に対し、訴訟法違反の有無を判断すれば足り、憲法違反としての判断を別途示さなくても判断遺脱(民訴法338条1項9号参照)には当たらない。
重要事実
再審原告は、確定した上告判決に対し再審の訴えを提起した。再審事由として、上告判決が「原判決の証拠によれば認定が可能である」とした表現を自ら事実認定を行ったものと解し、特定の貸借の有無等について判示しなかったこと、および憲法違反の主張に対して訴訟法違反の有無のみを判断したことが、判断の遺脱に当たると主張した。
あてはめ
まず、上告判決の「認定が可能である」との文言は、法律審として自ら事実認定をしたかのような表現を避けつつ、原判決の事実認定に諸法則違反や審理不尽等の違法がないという趣旨を述べたものにすぎない。次に、上告理由に「憲法違反」という語が用いられていても、実質が単純な訴訟法違反であれば、その有無を判断すれば足りる。本件では、本人尋問の採否についても、原審の証拠取捨の当否を判断した趣旨が含まれていると認められる。
結論
上告判決には、主張に対する判断の遺脱は存在しない。したがって、再審事由は認められず、本件再審の訴えは却下される。
事件番号: 昭和32(ヤ)25 / 裁判年月日: 昭和34年4月23日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】上告裁判所は不服申立ての限度でのみ調査義務を負うため、上告理由として主張されていない事項や、適法な期間経過後に提出された補充書記載の事項について判断を示さなくとも、判決に影響を及ぼすべき重要な事項の判断遺脱(民事訴訟法第338条1項9号)には当たらない。 第1 事案の概要:再審原告は、前審の上告判…
実務上の射程
再審事由としての「判断の遺脱」の存否を検討する際、上告審の法律審としての限界を踏まえた判決書の解釈指針を示す。特に、上告審が事実認定の合理性を肯定する表現を用いた場合に、それが独自の事実認定ではなく、原審の認定プロセスの適法性を肯定したものであると整理する際に活用できる。
事件番号: 昭和33(オ)272 / 裁判年月日: 昭和35年6月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】再審事由である「判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断を遺脱したこと」(民訴法338条1項9号)とは、当事者の主張があるにもかかわらず判断を脱漏した場合を指し、当事者の主張がない事項については判断遺脱に当たらない。 第1 事案の概要:上告人は、福岡地裁昭和30年(ワ)第917号の確定判決に対…
事件番号: 昭和31(オ)15 / 裁判年月日: 昭和32年8月1日 / 結論: 棄却
民訴法第四二〇条第一項但書にいわゆる当事者とは、当事者の訴訟代理人をも包含する趣旨と解すべきである。
事件番号: 昭和32(ヤ)7 / 裁判年月日: 昭和32年12月20日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】再審の訴えにおいて、主張される事実が民事訴訟法(旧法)420条1項所定の再審事由のいずれにも該当しない場合には、当該再審の訴えは不適法として却下される。 第1 事案の概要:再審原告は、最高裁判所の確定判決に対し、別紙記載(本判決文上は省略)の事由を根拠として再審の訴えを提起した。再審原告が主張した…