判旨
不動産の実質的な所有者が、登記名義人である他名義での売却を許容して売買を委任した場合、受任者が自己の名義で売買契約を締結したとしても、代理権の行使(顕名)があったものとして本人に効果が帰属する。
問題の所在(論点)
本人が、登記名義人である代理人に対し、代理人名義での処分を許容して売買を委任した場合において、代理人が本人名義ではなく自己の名義で契約を締結したとき、本人にその効果が帰属するか(顕名の欠如と代理の効果)。
規範
本人が代理人に対し、登記名義が代理人にあることを利用して代理人名義で目的物を売却することを許容して委任した場合には、代理人が自己の名義で契約を締結しても、実質的には本人を代理して行う意思が含まれており、代理権の範囲内の行為として本人に法律効果が帰属する。
重要事実
本件宅地の実質的な所有者である上告人は、夫であるDに対し、本件宅地の売却を委任した。その際、登記簿上の名義が夫Dにあったため、上告人は夫が自己の名義(D名義)で売却することを許容していた。その後、DはD名義で売却契約を締結したが、上告人は「夫の売買を承諾していない」として、売買の効力を否定し争った。
あてはめ
上告人は夫Dに対し本件宅地の売却を委任しており、その際、登記名義がDにあることを踏まえ、D名義での売却を明示または黙示に許していたと認められる。このような場合、形式的にはDが当事者として振る舞っているが、実質的には上告人から授与された代理権に基づき、上告人のためにする意思をもって行われたものといえる。したがって、Dが自己の名義で売却したとしても、代理権の行使があったものとして、その法律効果は本人である上告人に及ぶと解するのが相当である。
結論
上告人に本件売買の効果が帰属するため、上告人の請求は認められず、上告は棄却される。
事件番号: 昭和34(オ)726 / 裁判年月日: 昭和37年9月14日 / 結論: 破棄差戻
丙を代理人として、甲の先代から不動産を買い受けた乙が、丙にその所有権を移転する意思がないにも拘らず、たまたま右の売買契約書に買主名義が丙となつていた関係上、丙をして甲に対する所有権移転登記手続請求の訴を提起させ、その勝訴の確定判決に基づいて甲より丙に所有権移転登記を受けさせた場合には、民法第九四条第二項の法意に照し、乙…
実務上の射程
本判決は、顕名(民法99条1項)が欠ける場合であっても、本人の許容がある「名義借用による代理」において本人への効果帰属を認めた例である。答案上は、顕名の要件が問題となる場面で、実質的な代理関係の有無や本人の許容という観点から、顕名の趣旨(相手方の保護)を害さない場合に効果帰属を認める論理として活用できる。
事件番号: 昭和32(オ)795 / 裁判年月日: 昭和34年5月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産買入れの委任契約に基づき受任者が自己の名で取得した不動産の所有権は、特約により委任者に当然に帰属するとしても、その登記がない限り、委任者はその所有権の取得を第三者に対抗することができない。 第1 事案の概要:上告人は、受任者Dに対し、本件土地をDの名義で連合会から買い受けた後、上告人に名義を…
事件番号: 昭和40(オ)49 / 裁判年月日: 昭和41年10月18日 / 結論: 棄却
代理人が自己の名を示さず本人の名においてなした行為も代理行為として有効である。
事件番号: 昭和36(オ)377 / 裁判年月日: 昭和39年1月23日 / 結論: 破棄差戻
甲が乙所有の物件を権限なくして自己名義で丙に売り渡した場合には、丙において右物件が甲の所有であると信じ、かつそのように信じるにつき正当の事由があつても、表見代理の成立する余地はない。