判旨
売買の委託等の商取引において契約当事者が誰であるかは、商談の経緯、帳簿の記載、仕切書の宛名、事前の連絡状況等の諸般の事情を総合して判断すべきである。形式的な書面の記載のみならず、取引の実態や当事者の合理的な行動原理に照らして真実の委託者を確定する必要がある。
問題の所在(論点)
販売委託契約における「委託者(契約当事者)」が、組合(被上告人)であるか、それとも斡旋人とされるDであるか。特に、書面上の記載と実際の取引行動が食い違う場合の当事者確定の判断枠組みが問題となる。
規範
契約当事者の確定にあたっては、単に一部の書面(仕切書等)の記載のみによるのではなく、(1)交渉の主体および内容、(2)帳簿等の客観的資料の記載、(3)過去の取引関係の有無、(4)取引に至る事前連絡の経緯、(5)代金支払や残金送金依頼の態様といった諸事情を総合考慮し、経験則に照らして合理的に判断すべきである。
重要事実
被上告人(組合)は、Dの斡旋により、生あじの販売を上告人(魚類問屋)に委託したと主張した。組合の監査役Eが代理人として運搬し、上告人と販売委託の商談を成立させ、仕切書を受領した。しかし、当該仕切書の宛名は組合名と異なる記載(F組合)であり、上告人の荷受帳には荷主としてDの名が記されていた。その後、上告人はDに対して販売代金を送金した。原審はEを組合の代理人と認め、組合を委託者と判断したが、上告人はDが委託者であると争った。
あてはめ
本件では、(1)Eが監査役でありながら宛名相違の仕切書を訂正させず漫然と受領した不自然さ、(2)問屋である上告人が荷受帳という重要帳簿に単なる斡旋人を「荷主」として記載する蓋然性の低さ、(3)Dが事前に上告人へ販売委託を思わせる電話連絡をしていた形跡、等が認められる。これらの事実は、Dが真実の委託者である可能性を示唆しており、これらの諸点について十分な審究をなさずに、単に仕切書の記載を「誤記」として組合を委託者と断定した原判決は、経験則に照らした合理的な理由付けを欠いている。
結論
本件販売委託の当事者が誰であるかについての審理が不十分であり、理由不備がある。したがって、原判決を破棄し、更なる審理のため事件を差し戻す。
実務上の射程
契約当事者の確定が争われる事案(名義人と行為者が異なる場合など)において、代理関係の成否や顕名の有無を検討する前の前提作業として、事実認定の考慮要素を提示する際に活用できる。形式的な書面よりも、商慣行や当事者の社会的地位に相応した行動原理を重視する姿勢を示す判例である。
事件番号: 昭和27(オ)915 / 裁判年月日: 昭和31年10月12日 / 結論: 破棄自判
物品販売の委託を受けた問屋が他の問屋にこれを再委託した場合、再委託を受けた問屋と委託者本人との間に民法第一〇七条第二項を準用すべきでない。