判旨
売買の目的物の数量について買主が主観的に一定の数値を期待していたとしても、その数量の存在が契約の内容とされていない場合には、実際の数量が期待を下回っていても意思表示の要素に錯誤があるとはいえない。
問題の所在(論点)
売買契約において、買主が目的物の数量を主観的に誤認していた場合、その数量が契約の内容となっていないときでも「要素の錯誤」が認められるか。
規範
意思表示の要素に錯誤(旧民法95条本文)が認められるためには、表意者が主観的にその事項を認識していただけでなく、その事項が法律行為の内容となっていることを要する。特に目的物の数量に関する認識については、単なる見込数量の参照にとどまらず、その数量の存在が契約の基礎となり内容化されている必要がある。
重要事実
上告人は被上告人との間で山林の立木売買契約を締結した。この際、上告人は檜立木が約6000本、才数約15万才はあると主観的に考えていた。しかし、売主側が示した数値はあくまで見込数量を参考として述べたものに過ぎなかった。上告人の代理人は自ら山林を検分した結果に基づき、自らの推測した立木数量によって代金を決定し契約を締結した。実際には、立木の数量は上告人の期待していた数値を下回っていた。
あてはめ
本件において、売主側の述べた数量はあくまで見込を参考に提示されたものに過ぎない。上告人の代理人は自ら現地を検分した上で代金額を決定しており、本件契約は目的物の数量については買主の思惑(調査・推測)に任せる趣旨で締結されたと認められる。したがって、特定の数量が存在することを本件契約の内容とした事実はなく、上告人の主観的な期待と実際の数量に相違があったとしても、それは契約の要素に関する錯誤には当たらないと解される。
結論
本件売買契約につき、買受の意思表示に要素の錯誤があるということはできない。
実務上の射程
動機の錯誤が法律行為の内容となり「要素」の錯誤となるための境界線を示す事例である。答案作成上は、単なる主観的な期待や計算の基礎にとどまる事由は、それが明示的または黙示的に表示され契約の内容(基礎)となっていない限り、錯誤取消しを基礎付けないとする論理として活用できる。
事件番号: 昭和31(オ)107 / 裁判年月日: 昭和32年5月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約において、目的物件の過去の事故歴がないこと等を意思表示の内容とした事実が認められない場合には、動機の錯誤による無効は認められない。また、債務不履行を理由とする解除を主張するためには、債務者の責めに帰すべき事由による履行不能の事実が必要である。 第1 事案の概要:上告人(買主)は、本件売買取…