判旨
建物所有者からその名義を信託された登記名義人は、特段の事情がない限り、第三者に対して真の所有者でないことを理由に建物収去義務を免れることはできない。
問題の所在(論点)
建物の所有権を有さず、単に所有者から信託を受けて登記名義人となっているにすぎない者は、建物収去義務を負うか(物権的請求権の相手方となりうるか)。
規範
建物収去土地明渡請求において、建物の所有権を有しない登記名義人は、特段の事情のない限り、第三者に対する関係において真の所有者でないことを理由として建物収去義務を免れることはできない。これは、自らの意思に基づき登記名義人となった以上、土地所有者等の第三者に対し、登記の表示を信頼したことによる不利益を負わせないという趣旨に基づく。
重要事実
本件建物の法律上の所有者はA1であったが、その妻であるA2は、A1からの信託により登記簿上の所有名義人となっていた。土地所有者がA1およびA2に対し、建物収去土地明渡を求めたところ、登記名義人にすぎないA2も収去義務を負うかが争点となった。
あてはめ
本件において、A2は真の所有者であるA1からの信託に基づき、自らの意思で登記簿上の所有名義人となっている。このような場合、上記規範のとおり、特段の事情がない限り、第三者との関係では「真の所有者ではない」との抗弁をもって収去義務を拒むことはできない。本件ではかかる特段の事情は認められないため、A2は収去義務を免れないと解される。
結論
A2は、本件建物の真の所有者ではないとしても、登記名義人である以上、建物収去義務を負う。
実務上の射程
本判例は、物権的請求権の相手方は原則として現在の占有者(所有者)であるという原則の例外を認めたものである。答案上では、真の所有者と登記名義人が異なる場合に、土地所有者が登記を信頼して請求を行った際の相手方の特定に関する論証として活用する。「自らの意思に基づき登記名義となった」という帰責性が適用の鍵となる。
事件番号: 昭和44(オ)1215 / 裁判年月日: 昭和47年12月7日 / 結論: その他
建物の登記簿上の所有名義人にすぎない者は、たとえ、所有者との合意により名義人となつた場合でも、建物の敷地所有者に対して建物収去義務を負わないと解すべきである。
事件番号: 昭和31(オ)119 / 裁判年月日: 昭和35年6月17日 / 結論: 棄却
仮処分申請に基き、裁判所の嘱託により家屋所有権保存登記がなされている場合であつても、仮処分前に家屋を未登記のまま第三者に譲渡しその敷地を占拠していない右保存登記名義人に対し、敷地所有者から敷地不法占有を理由として家屋収去請求をすることは許されない。
事件番号: 昭和31(オ)532 / 裁判年月日: 昭和34年4月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物は敷地を離れて存在し得ないため、建物を占有使用する者は、当然にその建物の敷地も占有するものと解される。 第1 事案の概要:第三者(社団法人D協会)が郵政用地の上に建築資材展示場を建築して占有していた。上告人らは、当該建物の一部を占有使用していた。その後、建物の所有者である当該協会が敷地の使用権…
事件番号: 昭和34(オ)1162 / 裁判年月日: 昭和37年3月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の買受人が、当該不動産の賃貸借契約における賃貸人の地位を承継するためには、譲受人と譲渡人との間で賃貸人たる地位の譲受契約を締結することが必要であり、その代理権の授与も認められる必要がある。 第1 事案の概要:上告人(買受人)は、補助参加人(譲渡人)から本件土地を買い受けるに際し、訴外Dを代理…
事件番号: 昭和32(オ)366 / 裁判年月日: 昭和34年6月25日 / 結論: 棄却
家屋の所有者がその占有する権原のない場合に、右所有者を代表者とする会社がその家屋の全部を借受けて占有しているときは、右会社は、敷地の所有者に対し、敷地の不法占有による損害賠償責任を負う。