建物の登記簿上の所有名義人にすぎない者は、たとえ、所有者との合意により名義人となつた場合でも、建物の敷地所有者に対して建物収去義務を負わないと解すべきである。
建物の登記簿上の所有名義人にすぎない者と建物収去義務
民法177条
判旨
建物の所有権を有しない者は、実質的所有者との合意により自己名義の所有権保存登記をしていても、建物を収去する権能を有しないため、土地所有者からの建物収去土地明渡請求を拒むことができる。
問題の所在(論点)
所有権に基づき建物収去土地明渡しを請求する場合、建物の実質的所有者ではないが、自己名義の登記を有する者(名義人)を相手方とすることができるか。
規範
建物の所有権を有しない者は、たとえ実質的所有者との合意に基づき自己名義の所有権保存登記を経由していたとしても、当該建物を物理的・法律的に処分する権能(収去権能)を有しない。したがって、土地所有権に基づく建物収去義務を負うことはない。
重要事実
土地賃借権の無断譲受人であるA2が本件建物を建築し実質的に所有していたが、妻A1との合意によりA1名義で所有権保存登記を経由した。土地所有者である被上告人は、建物の登記名義人であるA1に対して建物収去および土地明渡しを求めて提訴した。なお、被上告人はA2が実質的な所有者であることを認識していた。
事件番号: 昭和31(オ)119 / 裁判年月日: 昭和35年6月17日 / 結論: 棄却
仮処分申請に基き、裁判所の嘱託により家屋所有権保存登記がなされている場合であつても、仮処分前に家屋を未登記のまま第三者に譲渡しその敷地を占拠していない右保存登記名義人に対し、敷地所有者から敷地不法占有を理由として家屋収去請求をすることは許されない。
あてはめ
本件建物の実質的な所有者はA2であり、A1は単なる名義人にすぎない。A1が建物の所有権を有しない以上、A1には当該建物を収去する権能が備わっていない。そのため、敷地所有者である被上告人の所有権に基づく請求に対しても、A1は建物収去義務を負担する法的地位にないといえる。したがって、登記名義の存在のみをもって収去義務を認めることはできない。
結論
A1は建物収去義務を負わない。したがって、被上告人のA1に対する請求は棄却されるべきである(原判決破棄、差し戻し)。
実務上の射程
本判決は、建物収去の相手方は原則として「現実の所有者」であることを示した。もっとも、後に示された最判平6.2.8(自称・他称登記名義人の責任)により、自らの意思で登記名義を保有し続ける等の要件を満たす場合には、土地所有者の保護(登記への信頼)の観点から例外的に収去義務を負う法理が確立されたため、本判決はその原則論を示すものとして整理すべきである。
事件番号: 昭和34(オ)444 / 裁判年月日: 昭和36年12月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の競売において、他人の依頼を受けて名義人となり競落した場合であっても、内部関係において所有権を依頼者に移転する合意があれば、依頼者が実質的な所有権を取得する。その後、当該物件の譲受人が従前の賃貸借契約を承継することに合意した場合には、譲受人は賃借人に対して明渡請求をなし得ない。 第1 事案の…
事件番号: 昭和35(オ)824 / 裁判年月日: 昭和38年12月19日 / 結論: 棄却
賃借地上に建物を所有する者より当該建物を賃借している者は、当該建物に居住することによつて敷地を占有する権限を右土地所有者に対して有する。
事件番号: 昭和32(オ)222 / 裁判年月日: 昭和35年1月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物所有者からその名義を信託された登記名義人は、特段の事情がない限り、第三者に対して真の所有者でないことを理由に建物収去義務を免れることはできない。 第1 事案の概要:本件建物の法律上の所有者はA1であったが、その妻であるA2は、A1からの信託により登記簿上の所有名義人となっていた。土地所有者がA…