甲所有地上の建物を取得し、自らの意思に基づいてその旨の登記を経由した乙は、たとい右建物を丙に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、甲に対し、建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできない。
甲所有地上の建物所有者乙がこれを丙に譲渡した後もなお登記名義を保有する場合における建物収去・土地明渡義務者
民法177条,民法200条,民法206条
判旨
建物所有者が自らの意思で所有権登記を経由した場合には、たとえ建物を第三者に譲渡しても、登記名義を保有する限り、土地所有者に対し所有権喪失を理由として建物収去・土地明渡義務を免れることはできない。
問題の所在(論点)
所有権に基づく物権的請求権(建物収去・土地明渡請求)の相手方は誰か。特に、自らの意思で建物所有権の登記を経由した者が、当該建物を第三者に譲渡して実質的な所有権を失った後も、登記名義を保有し続けている場合に、土地所有者からの請求を拒めるかが問題となる。
規範
土地所有権に基づく建物収去・土地明渡しを請求する場合、原則として現実に建物を所有することで土地を占拠している者を相手方とすべきである。しかし、自らの意思に基づき建物所有権取得の登記を経由した者は、建物を譲渡して所有権を失ったとしても、引き続き登記名義を保有する限り、土地所有者に対し所有権の喪失を主張して義務を免れることはできない。これは、土地所有者が建物所有権の帰属に重大な利害関係を有し、両者の関係が物権変動における対抗関係に類似すること、および登記に関わりなく実質的所有者を探索させることは土地所有者に困難を強いる一方、譲渡人は登記を移転することが容易であるため、所有権喪失の主張を認めることは信義則・公平の見地に反するからである。
重要事実
上告人は、競売により本件土地を取得したが、その地上には被上告人の夫が所有していた本件建物が存在していた。被上告人は夫の死亡に伴い建物を相続し、自らの意思で相続による所有権移転登記を経由した。その後、被上告人は本件建物を第三者Eに代金250万円で売り渡したが、登記名義は依然として被上告人のままとなっていた。土地所有者である上告人は、登記名義人である被上告人を相手取り、建物収去・土地明渡しを求めて提訴した。
あてはめ
被上告人は、本件土地上の建物を相続により取得し、自らの意思でその所有権移転登記を経由している。被上告人は本件建物をEに売却したと主張するが、現在も登記簿上の名義は被上告人のままとなっている。土地所有者である上告人と、建物の元所有者かつ現登記名義人である被上告人との関係は、建物の帰属を争う点で対抗関係に似た関係といえる。登記を自己名義にしたまま所有権の喪失を主張することは、真の所有者の探索を困難にする一方で、譲渡人にとって登記移転は困難ではないことから、信義則および公平の見地に照らして許されない。したがって、被上告人は上告人に対し、所有権喪失を主張して明渡義務を免れることはできない。
結論
被上告人は、本件建物の譲渡を理由に建物収去・土地明渡し義務を免れることはできず、上告人の請求は認容される。
実務上の射程
本判例は、登記名義を信頼した土地所有者を保護する「公信力」に近い機能を認めたものである。答案上は、物権的請求権の相手方の原則(実質的所有者)を述べた上で、自らの意思で登記を備えた場合には例外的に登記名義人が義務を負うという規範を定立する際に用いる。なお、判文にもある通り、未登記建物の譲渡や、意思に基づかない登記、一度も所有者となったことがない名義人の場合には本法理の射程外となる点に注意が必要である。
事件番号: 昭和52(オ)1002 / 裁判年月日: 昭和53年2月14日 / 結論: 棄却
土地賃貸借の終了を原因として原状回復義務の履行を求める訴訟において、地上建物の所有権の帰属いかんは、被告の右建物の収去による該土地の明渡義務を定めるについて影響を及ぼすものではない。
事件番号: 昭和44(オ)1215 / 裁判年月日: 昭和47年12月7日 / 結論: その他
建物の登記簿上の所有名義人にすぎない者は、たとえ、所有者との合意により名義人となつた場合でも、建物の敷地所有者に対して建物収去義務を負わないと解すべきである。
事件番号: 昭和40(オ)186 / 裁判年月日: 昭和43年1月23日 / 結論: 棄却
甲が乙から、建物を建て敷地とともに売却するいわゆる建売りのための土地購入資金を借り受け、丙らに対する右建売り代金から逐次弁済し、残債務決済の方法として、乙に対し右土地の所有権移転登記を経由した場合、乙は、右のように建売り代金から支払を受けたものであることおよび甲が、乙に対する右債務の関係上、一存で丙らに対し移転登記がで…