仮処分申請に基き、裁判所の嘱託により家屋所有権保存登記がなされている場合であつても、仮処分前に家屋を未登記のまま第三者に譲渡しその敷地を占拠していない右保存登記名義人に対し、敷地所有者から敷地不法占有を理由として家屋収去請求をすることは許されない。
敷地不法占有と家屋収去請求の相手方。
民法176条,民法177条
判旨
土地所有権に基づく妨害排除請求としての建物収去土地明渡請求において、被告とされるべき者は原則として現実に建物を所有して土地を占拠する者であり、建物を未登記のまま第三者に譲渡し、自己の意思に基づかず登記名義人となったに過ぎない前所有者は、被告適格を欠く。
問題の所在(論点)
建物の元所有者が、建物を第三者に譲渡して現実の所有権を失っているにもかかわらず、登記簿上の名義人(裁判所の嘱託による保存登記)である場合、土地所有者からの建物収去土地明渡請求の相手方(被告適格)となるか。
規範
土地所有権に基づく物上請求権(妨害排除請求)の行使にあたっては、現実に建物を所有することによって土地を占拠し、土地所有権を侵害している者を被告としなければならない。もっとも、建物の登記名義人が実体上の所有権を有しない場合であっても、自らの意思に基づき登記名義人となっている等の特段の事情があれば被告適格を認めうるが、自己の関知しないところで裁判所の嘱託により保存登記がなされたに過ぎない場合には、依然として現実の所有者を被告とすべきである。
重要事実
上告人(土地所有者)は、被上告人が土地上の家屋を所有して不法に占拠しているとして、建物収去土地明渡を求めた。しかし、被上告人は上告人が土地を買い取る以前に当該家屋を未登記のまま第三者に譲渡しており、現在は所有権も管理処分権限も有していなかった。なお、登記簿上は被上告人名義の保存登記が存在していたが、これは上告人の仮処分申請に基づき、被上告人の関知しないところで裁判所の嘱託によってなされたものであった。
事件番号: 昭和44(オ)1215 / 裁判年月日: 昭和47年12月7日 / 結論: その他
建物の登記簿上の所有名義人にすぎない者は、たとえ、所有者との合意により名義人となつた場合でも、建物の敷地所有者に対して建物収去義務を負わないと解すべきである。
あてはめ
本件被上告人は、上告人が土地を取得する前に家屋を第三者に譲渡しており、現在は家屋を支配・管理する権能を有しない。また、被上告人名義の保存登記は、上告人が行った仮処分申請に伴う裁判所の嘱託によりなされたものであり、被上告人の意思によるものではない。したがって、被上告人は現実に土地を占拠して所有権を侵害しているとはいえず、登記名義があるという一事をもって建物収去の義務を負わせることはできない。損害賠償請求についても、上告人の所有権取得前に譲渡を終えている以上、不法行為は成立しない。
結論
被上告人は被告適格を欠き、建物収去土地明渡請求および損害賠償請求はいずれも認められない。
実務上の射程
本判決は、建物収去請求の相手方を「現実の所有者」に限定する原則を示した。後に最判平6.2.8が「自らの意思で登記名義を保有し続ける者」への被告適格を認める例外を提示したが、本件のように「自分の意思に反して(嘱託等で)名義人となった者」には依然として本判決の射程が及び、被告適格は否定される。答案上は、登記名義人が自らの意思で名義を残しているか否かで本判決と平6年判決を使い分ける必要がある。
事件番号: 昭和37(オ)18 / 裁判年月日: 昭和41年4月27日 / 結論: その他
土地賃借人は、該土地上に自己と氏を同じくしかつ同居する未成年の長男名義で保存登記をした建物を所有していても、その後該土地の所有権を取得した第三者に対し、「建物保護ニ関スル法律」第一条により、該土地の賃借権をもって対抗することができないものと解すべきである。
事件番号: 昭和31(オ)465 / 裁判年月日: 昭和32年12月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地上の建物について登記が存在しない場合には、「建物保護ニ関スル法律」1条による対抗力は認められない。また、建物の収去を求める請求が権利の乱用とされるか否かは、事案の具体的経緯に照らして慎重に判断されるべきである。 第1 事案の概要:上告人は土地を賃借しその上に建物を所有していたが、当該建物につい…
事件番号: 昭和30(オ)875 / 裁判年月日: 昭和32年11月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地の賃借権者が建物保存登記を備える前に土地の所有権を取得した第三者に対し、特段の事情がない限り賃借権を対抗できず、当該第三者からの土地明渡請求が当然に権利濫用となるわけではない。 第1 事案の概要:被上告人(買主)は、昭和24年5月30日に本件土地を買い受け、同日所有権移転登記を完了した。一方、…
事件番号: 昭和39(オ)1311 / 裁判年月日: 昭和40年7月23日 / 結論: 棄却
借地人が現に建物所有の目的で使用している土地を第三者が悪意で取得したときには、借地人は法定の対抗要件を備えなくても、借地権をもつて右悪意の土地取得者に対抗できる、との見解は採用できない。