判旨
弁護士が相手方の前主から事情を聴取して書面を作成したとしても、当該書面が本件の争点に触れず、かつ相手方が別件訴訟の実質的相手方でない場合は、弁護士法25条の職務を行い得ない事件に該当しない。
問題の所在(論点)
弁護士が一方の当事者(上告人)から事情を聴取し書面を作成した経緯がある場合、その後に当該当事者と対立する側の代理人として活動することが、弁護士法25条1項2号(協議を受け賛助した事件)または3号(職務上取り扱った事件)に抵触し、職務を行い得ない事件に該当するか。
規範
弁護士法25条1項2号および3号にいう職務を行い得ない事件とは、弁護士が相手方の協議を受けて賛助し、あるいはその職務上取り扱った事件と同一または密接に関連する事件を指す。具体的には、弁護士が受任した事件において、過去に相談を受けた事項や表明した意見が、現在の紛争の目的物や権利関係に直接触れるものであるか、あるいは当事者が実質的に同一であるかという観点から判断される。
重要事実
D弁護士は、Eが提起した別件訴訟の被告Fらの代理人として応訴中、Eの前主である上告人から事情を聴取した。その結果、Dは上告人に代わり、上告人とEとの間の売買の無効または取消を通知する書面を作成しEに送付した。しかし、当該書面は本件係争の売買には一切触れておらず、Dが本件売買について上告人から相談を受け意見を述べた事実も認められなかった。また、別件訴訟の相手方はEであり、被上告人が実質的な相手方であるとも認められない状況であった。
あてはめ
D弁護士が作成した書面は上告人とEの間の別異の売買に関するものであり、本件の争点である売買には触れていない。したがって、Dが上告人とEの売買による所有権取得を否認したとしても、それが直ちに本件売買について意見を述べたことにはならない。また、別件訴訟の相手方と本件の被上告人の間に実質的な同一性も認められないため、弁護士法が禁止する利益相反の構造には当たらないといえる。
結論
D弁護士の行為は弁護士法25条1項2号および3号に違反せず、同弁護士が代理人として活動することに妨げはない。
実務上の射程
弁護士法25条の「職務を行い得ない事件」の該当性を判断する際、単に一方の当事者から過去に事情を聴取したという事実だけでなく、その聴取内容や作成された書面が「現在の係争対象」に直接関連しているか、および「当事者の実質的同一性」があるかを厳格に検討する際の指標となる。
事件番号: 昭和42(オ)901 / 裁判年月日: 昭和43年3月8日 / 結論: 棄却
弁護士が登記申請の双方代理をしても、その弁護士の行為は、特段の事由のないかぎり、弁護士法第二五条第一号に違反しない。
事件番号: 昭和36(オ)513 / 裁判年月日: 昭和36年12月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の二重譲受人等の第三者が民法177条の「第三者」に該当しないとされるためには、単に権利の存在を知っているだけでは足りず、相手方の登記の欠如を主張することが信義則(民法1条2項)に反すると認められるほどの強い「害意」を有する背信的悪意者であることを要する。 第1 事案の概要:上告人(被告)は本…
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【結論(判旨の要点)】建物の所有権取得に関する当事者双方の主張事実が証拠上認められない場合、公簿(登記簿等)の記載をもって一応真実の権利状態に適合するものと推定し、事実認定を行うことは適法である。 第1 事案の概要:本件家屋の所有権取得をめぐり、原告・被告双方が自己の所有権を主張したが、原審において双方の主張する取得原…
事件番号: 昭和38(オ)565 / 裁判年月日: 昭和39年9月18日 / 結論: 棄却
代理権を有する者のなした権限外の行為がその代理権となんら関係のない場合でも、相手方において代理人に権限があると信ずるに足る正当な理由があるときには、民法第一一〇条の適用がある。