判旨
弁護士が一方の当事者を代理して仮登記仮処分を申請した後、他方の当事者を代理して登記申請を行うことは、機械的事務であって弁護士法に定める職務に該当しない。したがって、その後に元の依頼者の訴訟代理人となることは、双方代理を禁止する民法108条や弁護士法の職務制限に抵触せず、訴訟代理権を欠くものとはいえない。
問題の所在(論点)
弁護士が、ある不動産について権利者側の代理人として仮登記申請に関与した後、義務者側の代理人として本登記申請を行い、さらにその登記の効力が争われた訴訟で再び権利者側の訴訟代理人となることが、弁護士法25条(職務制限)や民法108条(双方代理禁止)に抵触し、訴訟代理権を欠くことにならないか。
規範
登記申請行為は機械的事務に属するものであり、弁護士法25条(旧法24条)所定の職務に包含されない。したがって、登記義務者の意思決定に立ち入らない単なる事実行為(債務の履行)としてなされる登記申請代理は、民法108条が禁止する双方代理の趣旨にも抵触せず、その後の別件における訴訟代理資格を否定する理由にはならない。
重要事実
弁護士が、被上告人Bの代理人として不動産の仮登記仮処分を申請し、その命令を得て手続を実行した。その後、同弁護士は、本登記の義務者である上告人の代理人として、Bへの所有権移転登記申請手続を行った。さらに、上告人が当該登記の無効を主張して提起した抹消請求訴訟において、同弁護士がBの訴訟代理人となって手続を進めたため、上告人が同弁護士の訴訟代理資格の欠如を主張した。
あてはめ
本件弁護士が上告人を代理して行った所有権移転登記申請は、上告人が既に負担していた登記義務を履行するためになされた単なる事実行為であり、義務者の意思決定に立ち入る性質のものではない。このような機械的事務は弁護士法上の「職務」に含まれず、民法108条の趣旨にも反しない。ゆえに、当該登記申請に関与したことをもって、その後の本案訴訟においてBを代理することを禁じる理由はなく、訴訟代理権は適法に存在すると解される。
結論
弁護士の行為に双方代理禁止や職務制限の規定に抵触する点はなく、訴訟代理資格を欠いているとはいえない。本件訴訟代理は適法である。
事件番号: 昭和42(オ)901 / 裁判年月日: 昭和43年3月8日 / 結論: 棄却
弁護士が登記申請の双方代理をしても、その弁護士の行為は、特段の事由のないかぎり、弁護士法第二五条第一号に違反しない。
実務上の射程
登記申請等の「機械的事務」は弁護士法上の制限を受ける職務に当たらないことを示した。司法試験においては、弁護士の訴訟代理権の有無が争われる場面で、過去の関与が「意思決定を伴う職務」か「単なる事実行為」かを区別する際のメルクマールとして活用できる。
事件番号: 昭和33(オ)767 / 裁判年月日: 昭和35年4月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産登記手続において、代理人が本人及び相手方の双方を代理する場合であっても、それが既に成立している法律関係に基づく登記義務の履行であるときは、民法108条本文の禁止する双方代理には当たらない。 第1 事案の概要:上告人と被上告人の間の不動産取引に関連し、特定の書面(丙第2号証)が上告人の意思に基…
事件番号: 昭和32(オ)1191 / 裁判年月日: 昭和35年5月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】弁護士が相手方の前主から事情を聴取して書面を作成したとしても、当該書面が本件の争点に触れず、かつ相手方が別件訴訟の実質的相手方でない場合は、弁護士法25条の職務を行い得ない事件に該当しない。 第1 事案の概要:D弁護士は、Eが提起した別件訴訟の被告Fらの代理人として応訴中、Eの前主である上告人から…
事件番号: 昭和28(オ)361 / 裁判年月日: 昭和31年5月22日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】世帯主として家政を一切管理し、過去にも同種の不動産売却及び登記手続を支障なく行っていた長男による無権代理行為について、相手方が本人に直接確認しなかったとしても、代理権があると信ずべき正当な理由(民法110条)があるといえる。 第1 事案の概要:70歳の老齢である本人(被上告人)と同居する40歳超の…