債務者甲が債権者乙との間に甲所有の不動産について抵当権設定契約を締結し、甲が乙に対し右抵当権設定登記手続のため白紙委任状等の書類を交付して右登記手続を委任した場合でも、とくになんびとが右書類を行使しても差し支えない趣旨でこれを交付したものでないかぎり、乙がさらに右書類を丙に交付し、丙が右書類を濫用して甲代理人名義で丁との間に右不動産について抵当権設定契約を締結したときは、甲は、民法第一〇九条にいわゆる「第三者ニ対シ他人ニ代理権ヲ与ヘタル旨ヲ表示シタル者」にあたらない。
不動産の処分に関する白紙委任状等の転得者がその書類を濫用した場合と民法第一〇九条の適用の有無。
民法109条
判旨
不動産所有者が登記書類等を特定人に交付したが、その者からさらに書類の交付を受けた第三者が所有者の代理人と称して取引を行った場合、原則として民法109条の代理権授与表示には当たらない。不動産登記書類は転々流通することを常態としないため、特段の事情がない限り、直接の交付先以外による濫用まで本人が責任を負うものではないからである。
問題の所在(論点)
不動産所有者が特定の者(D)に対し登記書類を交付した際、そこからさらに書類の交付を受けた第三者(F)が所有者の代理人として不動産処分契約を締結した場合に、民法109条(白紙委任状による代理権授与表示)が適用されるか。
規範
民法109条にいう「代理権を与えた旨を表示した」といえるためには、本人が特定の者に対して代理権を授与したと信じさせる外観を作出したことを要する。不動産登記書類(権利証、白紙委任状、印鑑証明書)を特定人に交付した場合、その交付を受けた本人が代理人と称して取引を行うときは同条の適用があり得る。しかし、その者からさらに書類を譲り受けた「転得者」が代理人と称した場合には、原則として同条の適用はない。ただし、本人が当該書類を何人が行使しても差し支えない趣旨で交付したなどの特段の事情がある場合は、例外的に同条の適用が認められ得る。
重要事実
被上告人(本人)は、訴外Dから借金をするに際し、その担保となる抵当権設定登記のため、Dに権利証、白紙委任状、印鑑証明書を交付した。しかし、Dは自ら登記手続を行うことなく、金融を得る目的でこれらの書類をさらに訴外Fに交付した。Fはこれらの書類を利用し、被上告人の代理人と偽って、上告人との間で根抵当権設定契約および代物弁済契約を締結した。被上告人は、DやFがこのように書類を使用することについて承諾を与えていなかった。
あてはめ
本件において、被上告人が書類を交付した相手はDであり、Fではない。不動産登記書類は転々流通することを常態とするものではないから、被上告人がDに書類を託した事実をもって、当然にその転得者であるFに対しても代理権を授与した旨を表示したものとは解されない。また、被上告人が「何人が書類を行使しても差し支えない」という趣旨で交付したなどの特段の事情も認められない。したがって、委任状の受任者名が白地であったとしても、Fによる書類の濫用について被上告人が民法109条の責任を負うべき理由はない。
結論
本件におけるFの行為について、民法109条の適用を否定した原審の判断は正当であり、被上告人は根抵当権設定契約等の効果を甘受する必要はない。
実務上の射程
白紙委任状を用いた民法109条の成否に関する重要判例である。答案上は、直接の交付相手(直接受任者)が濫用した場合には109条の適用を認めつつ、本件のように「転得者」が代理人と称した場合には、原則として表示の帰責性を否定する論理として活用する。例外的に「誰が行使してもよいという趣旨(転々流通の容認)」が認定できれば適用の余地があるが、不動産取引においてはそのハードルが高いことを示唆している。
事件番号: 昭和33(オ)79 / 裁判年月日: 昭和35年8月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本人が代理人に対して特定の法律行為(本件では不動産の売買契約)を行うための権限を授与していた場合には、当該代理人が本人の名において行った行為の効果は本人に帰属する。 第1 事案の概要:本件において、上告人の代理人であるDは、被上告人である宮城県との間で、上告人が所有する本件建物を売り渡す旨の売買契…
事件番号: 昭和36(オ)1283 / 裁判年月日: 昭和39年3月12日 / 結論: 棄却
弁論の全趣旨が何をさすかを具体的に判文に説示する必要はない。
事件番号: 昭和33(オ)800 / 裁判年月日: 昭和35年2月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】他人に信用を得させる目的で、単に見せるためだけに登記権利書と印鑑を貸与したに過ぎない場合、何ら代理権を授与したものとは認められず、表見代理の成立も否定される。 第1 事案の概要:被上告人は、訴外Dから「E株式会社に対する信用を得るために、単に同会社に見せるだけ」という目的で、本件土地の登記権利書と…
事件番号: 昭和27(オ)592 / 裁判年月日: 昭和29年8月31日 / 結論: 棄却
本人が代理人に対し、甲名義をもつて金員を借り受けることを委任し、これに基き代理人が甲のためにすることを示して第三者から金員を借り受けたときは、右消費貸借は本人に対して効力を生ずる。