判旨
賃借人が増築や付加工事を禁ずる特約に違反した場合、賃貸人が数次にわたり賃料を増額改訂した事実があるからといって直ちに解除権を放棄したとはみなされず、信頼関係を破壊する程度の違反がある限り解除は有効である。
問題の所在(論点)
賃借人が増築禁止特約に違反して工事を行った場合において、その後の賃料増額改訂をもって解除権の放棄または黙示の承諾があったとみなされるか。また、かかる解除権の行使が信義則に反するか。
規範
賃貸借契約における無断増改築等の特約違反を理由とする解除については、賃借人の行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情がない限り、有効に認められる。また、解除原因発生後に賃料の増額改訂がなされたとしても、その一事をもって直ちに解除権の放棄や事後承諾があったとは認められない。
重要事実
賃借人(上告人)は、賃貸人(被上告人)との間で増改築を禁止する特約を付して建物を賃借していた。しかし、上告人は浴室の増築を行い、被上告人から撤去の催告を受けたにもかかわらず、これに従わないばかりか更に木戸の取付工事(付加工事)を実施した。これにより通路が遮断されるなど被上告人は種々の迷惑を蒙った。一方で、被上告人からの警告から解除権行使まで約4年半が経過しており、その間に数回の賃料増額改訂が行われていた。
あてはめ
上告人は、浴室撤去の催告を無視してさらに通路を遮断する木戸の取付を強行しており、被上告人に対し無視できない程度の迷惑(不利益)を与えている。このような状況下では、信頼関係を破壊する程度の特約違反があるといえる。また、警告から4年半が経過し、その間に賃料増額がなされた事実はあるものの、それは継続的な利用に対する対価の調整に過ぎず、違反行為そのものを容認し解除権を放棄したとまで評価することはできない。
結論
本件解除権の行使は信義則違反や権利の濫用にはあたらず、賃貸借契約の解除は有効である。
実務上の射程
信頼関係破壊の理理において、解除までの期間経過や賃料受領・増額が「黙示の承諾」や「解除権の放棄」とみなされるかどうかの判断基準として機能する。本判決は、単なる賃料増額の事案では解除権は消滅しないことを示しており、あてはめにおいて賃借人の背信性の程度(催告無視や追加の違反行為)を重視する姿勢を強調する際に有用である。
事件番号: 昭和34(オ)768 / 裁判年月日: 昭和37年5月29日 / 結論: 棄却
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事件番号: 昭和33(オ)453 / 裁判年月日: 昭和34年7月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人による建物の無断増改築等の行為が、賃貸人に対する背信行為と認められる場合には、賃貸借契約の解除が認められる。また、そのような解除に基づく明渡請求は、特段の事情がない限り権利の濫用には当たらない。 第1 事案の概要:賃借人(上告人)が、賃貸人(被上告人)に無断で本件賃貸借契約の対象に関連して建…
事件番号: 昭和42(オ)1356 / 裁判年月日: 昭和43年4月16日 / 結論: 棄却
土地の一部につき無断転貸などの違反行為があつたにすぎない場合でも、建物と土地とが一個の賃貸借の目的となつているときには、右賃貸借全部を解除することができる。