判旨
債務者が特定の債務の支払として金銭を提供した場合、その債務が不存在であれば、他に有効な債務が存在したとしても、当該給付は法律上の原因を欠く不当利得となる。また、給付者が債務の不存在を知らない限り、非債弁済の規定は適用されない。
問題の所在(論点)
特定の債務の弁済としてなされた給付について、当該債務が不存在であり、かつ他の有効な債務が並存する場合であっても、不当利得(民法703条)が成立するか。また、非債弁済(民法705条)の成否が問題となる。
規範
特定の債務の弁済として金銭の給付がなされた場合において、当該特定の債務が法律上存在しないときは、その給付は原則として「法律上の原因」を欠く(民法703条)。また、債務が存在しないことを知りながら任意に弁済をしたといえるためには、給付者が給付時に債務の不存在を現に認識していることを要する(民法705条)。
重要事実
D株式会社は、上告人に対し、屑鉄代金債務と損害賠償債務を負っていると主張されていた。上告人は、受領する現金12万110円を専ら損害賠償債務に充当し、屑鉄代金債務には別途手形金を充当する旨を提言して、D社から現金を受領した。しかし、実際には当該損害賠償債務は存在しなかった。D社は、当該損害賠償請求権が不存在であることを知らないまま、その支払いとして現金を提供していた。
あてはめ
本件では、上告人が現金を「損害賠償債務のみに充当する」との名目で受領しており、給付の目的が当該特定の債務に限定されていた。事実、当該損害賠償債務は存在しないため、給付は法律上の原因を欠くと評価される。さらに、D社は支払時に損害賠償債務の不存在を認識していなかったため、自発的に非債弁済を行ったものとはいえず、民法705条による返還請求の阻止は認められない。
結論
損害賠償債務が存在しない以上、現金の支払は法律上の原因を欠く不当利得であり、D社は上告人に対しその返還を請求できる。非債弁済には該当しない。
実務上の射程
特定の債務の弁済を目的とする「充当の指定」がある場合、客観的に他の債務が存在していても、指定された債務が不存在であれば不当利得が成立することを示唆する。実務上は、弁済の目的となった債務の特定性と、給付者の主観的認識(不存在の不知)の主張立証が重要となる。
事件番号: 昭和35(オ)675 / 裁判年月日: 昭和38年12月24日 / 結論: 棄却
一 発起人が会社の成立を条件としてなした法律行為のうち、単純な債務引受は財産引受にあたらないが、積極消極両財産を含む営業財産を一括して譲り受ける契約は、財産引受にあたる。 二 発起人は、会社設立自体に必要な行為のほかは、開業準備行為といえども原則としてこれをなしえず、ただ、原始定款に記載されその他法定要件を充した財産引…
事件番号: 昭和62(オ)1057 / 裁判年月日: 昭和63年7月1日 / 結論: 破棄自判
債権者が第三者所有の不動産の上に設定を受けた抵当権が不存在である.にもかかわらず、右抵当権の実行により第三者が不動産の所有権を喪失したときは、第三者は、売却代金から弁済金の交付を受けた右債権者に対し不当利得返還請求権を有する。