判旨
共同賃貸人が無断転貸を理由として賃貸借契約を解除する場合、賃貸人の一部が他の賃貸人を代理して全員の意思として解除の意思表示を行い、それが借主に到達したときは、民法544条1項の要件を充足し有効である。
問題の所在(論点)
1. 共同賃貸人の一部による解除の意思表示が、民法544条1項(解除権の不可分性)に反せず有効といえるか。 2. 無断転貸を理由とする解除が、信頼関係を破壊しない特段の事情があるとして制限されるか。
規範
1. 賃借人が賃貸人の承諾なく第三者に賃借物の使用・収益をさせた場合でも、それが賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、民法612条2項に基づく解除権は発生しない(背信階層理論)。 2. 契約の当事者の一方が複数人あるときは、解除の意思表示は、その全員から又はその全員に対してのみしなければならない(民法544条1項)。もっとも、共同当事者の一部が他の当事者を代理して解除の意思表示を行うことは可能であり、その意思表示が全員を代表する趣旨でなされたと認められる場合には、同項の趣旨を満たすものとして有効である。
重要事実
1. 賃貸人(共有者)であるB1、D、E、B2の4名が、賃借人Aに対し建物を賃貸した。 2. Aが第三者を同居させたことが無断転貸にあたるとして、賃貸人のうちB1、D、Eの3名が原告となり、Aに対して建物の明渡しを求める訴えを提起した。 3. 当該訴状には、B2を除く3名が、B2を代理して賃貸人全員の意思として契約を解除する旨が記載されていた。 4. 上告人(賃借人)は、解除の意思表示が賃貸人全員からなされていない旨を主張して争った。
あてはめ
1. 本件では、原告となっていない共有者B2についても、他の原告3名が代理して解除の意思表示を行う趣旨であったことが訴状の記載から認められる。この場合、形式上は一部の者が原告であっても、実質的には共同賃貸人全員による解除の意思表示がなされたものと解するのが相当であり、民法544条1項に違反しない。 2. 賃借人が第三者を同居させた行為は無断下転貸に該当し、その態様等の諸事情に照らせば、賃貸人に対する背信的行為にあたると認定される。これを超える特段の事情が認められない以上、解除の通知は信義則に反せず、権利濫用にもあたらない。
結論
共同賃貸人の一部が他の賃貸人を代理して行った解除の意思表示は、全員によるものとして有効であり、背信性が認められる以上、無断転貸に基づく解除は正当である。
実務上の射程
司法試験では、民法544条1項の「不可分性」の論点において、一部の者による代理権行使の有効性を示す際の根拠となる。また、背信行為論(612条)と不可分性の要件(544条)が複合的に問われる事案での処理手順を示す判例として重要である。
事件番号: 昭和29(オ)884 / 裁判年月日: 昭和30年4月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人が賃貸人の承諾なく第三者に賃借物の使用又は収益をさせた場合でも、賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、賃貸人は民法612条2項に基づく解除権を行使できない。 第1 事案の概要:判決文からは具体的な事案の詳細は不明であるが、賃借人が賃貸人の承諾を得ることなく、本件建物…