判旨
農地売買において知事の許可を得る手続をする約束がある場合、許可前の引渡しや耕作の開始という事実のみをもって、直ちに農地法違反の無効な契約と断定することはできない。
問題の所在(論点)
農地の売買において、許可手続の合意がある一方で許可前に引渡しがなされた場合、当該契約は農地法違反として無効になるか、あるいは許可を停止条件とする有効な契約と解すべきか。
規範
農地の売買契約が農地法(旧農地調整法)上の許可を条件とする停止条件付売買契約であるか、あるいは許可を前提としない脱法的な無効な契約であるかの判断においては、当事者が許可手続を行う合意をしていたか否かが重要である。単に許可前に目的物の引渡しや耕作の着手があったという事実のみによって、当初の許可取得の約束が当然に消滅したと解することはできず、特段の事情がない限り、経験則上、停止条件付契約と解するのが相当である。
重要事実
売主と買主との間で本件農地の売買契約が締結された際、直ちに知事の許可を受ける手続をすることが約束されていた。しかし、買主は許可を受ける前に農地の引渡しを受け、肥培等の耕作に着手した。原審は、この許可前の引渡し・耕作開始の事実を根拠に、本件契約は許可を停止条件とするものではなく、許可なくなされた無効な契約であると認定した。
あてはめ
本件では、契約成立時に「直ちに知事の許可を受ける手続をする」旨の合意が認められており、当事者は適法な手続を経る主観的意図を有していた。それにもかかわらず、引渡しや耕作が先行したという一事をもって、当初の許可取得の約束が消滅したと推認することは論理の飛躍がある。他に約束を撤回したなどの特段の事情がない限り、許可を停止条件とする契約関係は維持されていると評価すべきであり、原審の判断は経験則に反し理由不備といえる。
結論
許可前の引渡し等の事実があっても、許可手続の約束がある以上、直ちに無効とはならず、停止条件付売買契約として有効に成立し得る。したがって、原判決は破棄を免れない。
事件番号: 昭和30(オ)995 / 裁判年月日: 昭和33年6月5日 / 結論: 棄却
一 知事の許可を停止条件として締結された農地の売買契約は、無効ではない 二 土地の買主が約定の履行期後、売主に対し、しばしばその履行を求め、かつ売主において右土地の所有権移転登記手続をすれば、何時でも支払えるよう残代金の準備をしていたときは、民法第五五七条にいわゆる「契約の履行に著手」したものと認めるのが相当である
実務上の射程
農地法3条許可をめぐる契約の有効性判断において、許可前の占有移転という強行法規違反に近い外形があっても、当事者に許可取得の真意があれば停止条件付契約としての構成を維持できることを示している。答案上は、農地法違反による公序良俗違反(民法90条)や無効の主張に対し、条件付契約の法理による有効性を基礎付ける際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和30(オ)321 / 裁判年月日: 昭和32年4月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地の売買において、都道府県知事の許可を停止条件とする契約を締結することは農地法(旧農地調整法)に反せず、許可が得られた場合には、売主は地目変換の申告や登記手続等の契約上の義務を履行する責任を負う。 第1 事案の概要:買主(被上告人)は、農地を工場敷地として利用するため、売主(上告人)との間で本件…
事件番号: 昭和38(オ)1044 / 裁判年月日: 昭和39年6月9日 / 結論: 棄却
農地につき知事の許可なくして為された売買契約でも、その後該農地が適法に宅地化されたときは、そのときから当然効力を生ずると解すべきである。
事件番号: 昭和34(オ)642 / 裁判年月日: 昭和35年11月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地法上の許可を停止条件とする農地の売買契約において、地目が畑であり実態が農地であると認められる場合には、その性質に基づき適法な事実認定がなされるべきである。 第1 事案の概要:被上告人らは、上告人から本件土地を北海道知事の許可を停止条件として買い受けた。本件土地の地目は「畑」であり、原審において…
事件番号: 昭和30(オ)657 / 裁判年月日: 昭和32年5月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地の贈与について都道府県知事の許可が得られていない場合であっても、当該許可を停止条件とする贈与契約は有効に成立する。 第1 事案の概要:上告人は、本件農地を贈与する旨の契約を締結したが、都道府県知事の許可が得られていないことを理由に、贈与契約は無効であり、許可申請手続を履行する義務もないと主張し…