判旨
質権者が所有者の承諾を得ず、または転質の正当な権限を持たない代理人を通じて質権を設定したとしても、即時取得の要件を充足しない限り質権を有効に取得することはできない。即時取得における無過失の判断は、引渡しを受ける際の諸事情を総合して判断されるべきである。
問題の所在(論点)
質権者の配偶者が、質権者の承諾なく無断で質物を他へ入質させた場合に、引渡しを受けた者が質権を即時取得できるか。また、その際の「過失」の有無をいかに判断すべきか。
規範
1. 質権の設定において、設定者が目的物を処分する権限を有しない場合、相手方が質権を有効に取得するためには、民法192条の即時取得の要件(善意・無過失等)を充足する必要がある。 2. 代理権を有しない者が勝手に質権を設定した場合、その効果は本人(質権者等)に帰属せず、即時取得が成立しない限り、取得者は質権(または転質権)を対抗し得ない。
重要事実
1. 所有者D・EがFに対し、本件物件を質入れしていた。 2. Fの妻Gは、夫Fの了解を得ることなく、勝手に本件物件を持ち出し、上告人との間で貸金債務の担保として質権設定契約を締結し、物件を引き渡した。 3. 上告人は、Gとの契約により質権(実質的には転質権)を取得したと主張し、即時取得の成立を争った。
あてはめ
1. 本件物件はFが質権者として占有していたものであるが、妻GはFの了解を得ず「ほしいままに」上告人へ質入れしている。このため、Gには有効な処分権限がなく、上告人は承継取得による質権(転質権)取得ができない。 2. 即時取得の成否について検討するに、原審は上告人本人尋問の結果や諸般の事情を総合し、上告人が引渡しを受けるにあたって「過失」があったと認定している。この事実認定に基づけば、民法192条の要件を欠くため、即時取得は成立しない。
結論
上告人は本件物件について質権を有効に取得したとはいえず、上告を棄却する。
実務上の射程
実務上、無権限者(本件では質権者の配偶者)による質入れにおいて即時取得を主張する場合、取引態様からみて相手方に過失がなかったといえるかが極めて重要となる。また、本判決の反対意見では、即時取得における「無過失」の立証責任を誰が負うか(188条による推定の成否)という重要な論点に触れているが、法廷意見は原審の事実認定を維持するにとどまっている点に注意が必要である。
事件番号: 昭和28(オ)190 / 裁判年月日: 昭和30年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法192条の即時取得は、動産取引において譲渡人に処分権限がないという瑕疵を治癒する規定であり、差押えが要件を欠き競売手続自体が当然無効となった場合にまで適用されるものではない。 第1 事案の概要:上告人は、対象動産の差押えが法律の定める要件を欠いていたため、競売手続が当然に無効であると判断された…