判旨
債務者が支払の確実な小切手を提供し、債権者が従来同様の支払を異議なく受領していた事情がある場合、その提供は信義則上、現金の提供と同一視され適法な弁済の提供となる。また、売買目的物の範囲に一部誤認があったとしても、それが土地の特定の範囲の問題に過ぎない場合は、契約全体の要素の錯誤(民法95条)には当たらない。
問題の所在(論点)
1. 支払の確実な小切手による提供が、適法な弁済の提供(民法493条)として認められ、相手方の解除権発生を阻止するか。 2. 売買対象土地の範囲や表示に若干の相違がある場合、要素の錯誤(民法95条)が認められるか。
規範
1. 弁済の提供(民法493条)において、提供された支払手段が小切手であっても、それが支払の確実なものであり、かつ当事者間の過去の取引態様から小切手による支払が許容されていたと認められる場合には、信義則上、現金の提供と同一視すべき適法な提供となる。 2. 意思表示の錯誤(民法95条)に関し、目的物の範囲の細部に誤認がある場合であっても、それが調整可能な範囲の問題にとどまるときは、契約の重要部分に錯誤があるとはいえず、契約全体を無効(取消し)とはしない。
重要事実
上告人(売主)と被上告人(買主)の間で、土地売買の割賦金支払に関する調停が成立した。被上告人は割賦金の支払に際し、支払の確実な小切手を提供したが、上告人はこれを受領しなかった。その後、被上告人は翌日に現金を提供したが、上告人は割賦金の支払遅滞を理由に本件売買契約の解除を主張した。また、上告人は、調停で合意した土地の範囲と登記上の表示に相違があること等を理由に、要素の錯誤による無効も主張した。
あてはめ
1. 本件小切手は支払が確実であり、かつ従前から上告人は小切手による支払を異議なく受領していた。このような状況下では、小切手の提供は実質的に現金の提供と同視でき、上告人が受領していれば決済されたはずである。したがって、翌日の現金提供と併せて適法な提供があったといえ、上告人の解除権行使は認められない。 2. 土地の表示が更正前後で地目や坪数に多少の差異があっても、地番は同一であり、現況と登記の調整の問題にすぎない。一部の土地が第三者に賃貸されていたとしても、それは売渡土地の具体的範囲の調整の問題であり、契約全体の要素に錯誤があったとは認められない。
結論
1. 適法な弁済の提供があったため、債務不履行を理由とする解除は認められない。 2. 土地の範囲に関する錯誤は要素の錯誤に該当せず、契約は有効である。
事件番号: 昭和24(オ)249 / 裁判年月日: 昭和26年6月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】金銭債権の弁済の提供において、単に貨幣価値が下落したという一事のみをもって、その提供が債務の本旨に従わないものと解することはできない。 第1 事案の概要:被上告人は訴外Dに対し、和解契約に基づき金8000円の弁済の提供を行った。これに対し上告人は、契約締結時と比較して貨幣価値が著しく下落しているこ…
実務上の射程
現実の提供(493条本文)の具体的態様として、小切手による支払が「信義則」に基づき有効となり得ることを示した。また、錯誤における「要素(重要部分)」の判断において、契約の主目的が達成可能で細部の調整が可能な場合は、錯誤無効(取消し)を否定する実務的な考慮を示している。
事件番号: 昭和47(オ)1174 / 裁判年月日: 昭和48年12月11日 / 結論: 破棄差戻
一、裁判上の和解において甲が一定期日に乙に対し金員の支払をなすべき旨定められていても、他方、乙は甲から右金員の支払を受けると同時に甲に対し登記手続をすべき旨定められているときは、特別の事情の存しないかぎり、右両債務は同時履行の関係にある。 二、債務者が弁済のため銀行振出小切手を債権者方に持参してその受領を催告すれば、こ…
事件番号: 昭和24(オ)209 / 裁判年月日: 昭和26年4月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律行為の要素に錯誤があるというためには、意思表示の時点において当該事情が契約の必須の要件とされている必要がある。契約成立後に生じた事情や合意は、特段の事情がない限り、契約締結時における意思表示の要素の錯誤を構成しない。 第1 事案の概要:上告人(売主)は本件家屋の売買契約を締結したが、後に「期限…
事件番号: 昭和39(オ)1487 / 裁判年月日: 昭和41年9月22日 / 結論: 破棄差戻
停止条件付代物弁済契約は、弁済期日に債務不履行のあつた場合に当初の債務全額の弁済に代えて目的物の所有権を移転する趣旨と解すべきであり、債務の一部弁済があつた場合にも、その趣旨は異なるものでなく、その残債務の弁済に代えて目的物の所有権を移転する趣旨と解すべきではない。
事件番号: 昭和40(オ)1498 / 裁判年月日: 昭和41年5月27日 / 結論: 棄却
債務者が、被担保債権額以下の実価を有する抵当不動産を相当な価格で売却し、その代金を当該債務の弁済に充てて抵当権の消滅をはかる場合には、右不動産売却行為は、民法第四二四条所定の債権者を害する行為にはあたらない。