一、裁判上の和解において甲が一定期日に乙に対し金員の支払をなすべき旨定められていても、他方、乙は甲から右金員の支払を受けると同時に甲に対し登記手続をすべき旨定められているときは、特別の事情の存しないかぎり、右両債務は同時履行の関係にある。 二、債務者が弁済のため銀行振出小切手を債権者方に持参してその受領を催告すれば、これを債権者の面前に提出しなくても、現実に弁済の提供をしたものとみるのが相当である。
一、裁判上の和解において定められた債権債務が同時履行の関係にあるとされた事例 二、弁済のための銀行振出小切手の持参と現実の提供
民法493条,民法533条,民訴法203条
判旨
金銭債務の弁済において、銀行振出小切手を持参して受領を催告した場合は、特段の事情がない限り、現実に提示しなくても有効な「現実の提供」にあたる。
問題の所在(論点)
金銭債権の弁済において、銀行振出小切手を持参し受領を催告したが、これを現実に提示しなかった場合、民法493条本文の「現実の提供」として有効か。また、小切手の持参のみで債務不履行責任を免れるか。
規範
債務者が弁済のために銀行振出小切手を債権者方に持参してその受領を催告したときは、特段の事情のない限り、これを債権者の面前に提示しなくても、民法493条にいう「現実の提供」をしたものと解するのが相当である。なぜなら、銀行振出小切手は取引界において通常その支払が確実なものとして現金と同様に取り扱われているからである。
重要事実
上告人と被上告人は、上告人が170万円を支払うこと、および建物と土地の交換登記を行うこと等を内容とする裁判上の和解を成立させた。上告人は、和解で定められた支払期限経過後に、銀行支店長振出の170万円の小切手を持参して被上告人方を訪れた。上告人は「170万円の準備はできているから交換登記をしてほしい」旨を述べ、必要書類への押印を求めた。これに対し、被上告人は別の債務引受がなされていないことを理由に登記を拒否したため、上告人は小切手を現実に提示することなく帰宅した。被上告人は、170万円の現実の提供がないとして和解契約の解除を主張した。
事件番号: 昭和29(オ)234 / 裁判年月日: 昭和33年2月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債務者が支払の確実な小切手を提供し、債権者が従来同様の支払を異議なく受領していた事情がある場合、その提供は信義則上、現金の提供と同一視され適法な弁済の提供となる。また、売買目的物の範囲に一部誤認があったとしても、それが土地の特定の範囲の問題に過ぎない場合は、契約全体の要素の錯誤(民法95条)には当…
あてはめ
本件において、上告人が持参したのは銀行振出小切手であり、その支払の確実性から現金と同視しうるものである。上告人はこの小切手を被上告人の住所に持参し、支払の準備ができていることを伝え、対価である登記手続という受領を催告している。被上告人が他の理由をつけて明確に受領を拒否する態度を示している以上、たとえ小切手を物理的に目の前に差し出していなくとも、社会通念上、債権者の受領を促すに足りる現実の提供があったといえる。したがって、上告人の弁済の提供は有効であり、債務不履行は成立しない。
結論
銀行振出小切手を持参して受領を催告した以上、現実の提示がなくても有効な提供となり、上告人は履行遅滞の責任を負わない。よって、被上告人による解除は認められない。
実務上の射程
金銭債務の「現実の提供」の程度を緩和する重要な判例である。銀行振出小切手の高い換金性を根拠としており、通常の私製小切手には直接適用されない可能性がある点に注意が必要。司法試験では、受領遅滞や解除の可否が問われる場面で、債務者の提供が適法かを検討する際の規範として用いる。
事件番号: 昭和40(オ)554 / 裁判年月日: 昭和42年9月14日 / 結論: 棄却
甲に対して建物明渡を命じた判決に基づき、当該訴訟の原告乙の単独申請によつてされた右建物の所有権移転登記であつても、右登記が実体的権利関係に合致しているのみならず、甲が右登記義務履行について有する同時履行の抗弁権も消滅しており、かつ、登記当時他に右建物の帰属について利害関係を有する第三者が存在していない場合には、甲は、右…
事件番号: 昭和24(オ)113 / 裁判年月日: 昭和26年2月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】同時履行の関係に立つ債務において、相手方を履行遅滞に陥らせて契約を解除するには、自己の債務の履行を提供した上で催告することを要し、履行の提供を伴わない解除は効力を有しない。 第1 事案の概要:不動産の売主(上告人)と買主(被上告人)との間で本件売買契約が締結された。本件契約において、買主の残代金支…
事件番号: 昭和34(オ)470 / 裁判年月日: 昭和35年11月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】未登記不動産の所有者がこれを譲渡した後でも、登記を備えない限り譲渡人は完全な無権利者とはならない。したがって、譲渡人名義でなされた保存登記およびそれを前提とする仮差押登記は、対抗関係の法理により有効である。 第1 事案の概要:訴外Dは、自己の所有する本件建物を未登記のまま上告人Aに売り渡した。その…
事件番号: 昭和27(オ)893 / 裁判年月日: 昭和29年7月27日 / 結論: 棄却
双方の給付が同時履行の関係にある場合反対給付の提供をしないでした催告にもとづく契約解除は効力を生じない。