株式会社甲が商法二八〇条ノ三ノ二に定める公告又は通知を欠いたまま新株を発行した場合において、それにより、代表取締役戊の姉乙、その夫である監査役丙、同人が代表取締役を務める株式会社丁ら合計すれば当時甲の発行済株式の総数の過半数を所有していた株主らの持株が過半数を割り込むことになり、他方、戊の持株は過半数を上回ることになって、甲に対する支配関係が逆転するものであり、戊は右新株発行について甲の取締役に他言しないように頼んでおり、右新株発行が取締役会で決議されたのは、商法の一部を改正する法律(平成二年法律第六四号)の施行日の直前であって、もし右施行日後に右決議がされていれば、株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定款の定めのある甲の株主乙らは新株引受権を有することになったはずである上、新株の払込期日は右決議の約二箇月も先の日と定められ、甲が右決議の当時、資金を緊急に調達する必要があったとはいい難いなど判示の事情の下においては、右新株発行は商法二八〇条ノ一〇所定の「著シク不公正ナル方法」によるものではないとは到底いえず、差止の事由がないとは認められないから、右新株発行には無効原因がある。
商法二八〇条ノ三ノ二に定める公告又は通知を欠く新株発行につき著しく不公正な方法によるものではないとはいえず無効原因があるとされた事例
商法280条ノ3ノ2,商法280条ノ10,商法280条ノ15
判旨
非公開会社において株主への通知・公告を欠いた新株発行は、差止事由(著しく不公正な方法等)がないと認められない限り、新株発行無効の訴えにおける無効原因となる。
問題の所在(論点)
法定の通知・公告を欠いたままなされた新株発行が、新株発行無効の訴え(現会社法828条1項2号)における無効原因となるか。
規範
新株発行に関する公示(商法280条ノ3ノ2、現会社法201条3項・4項等)は、株主が差止請求権(現会社法210条)を行使する機会を保障するためのものである。したがって、公示を欠く新株発行は、差止請求をしたとしても差止事由がないために許容されないと認められる場合でない限り、原則として無効原因となる。
事件番号: 平成5(オ)317 / 裁判年月日: 平成9年1月28日 / 結論: 棄却
新株発行に関する事項について商法二八〇条ノ三ノ二に定める公告又は通知を欠くことは、新株発行差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となる。
重要事実
非公開会社である被告会社は、運転資金不足を理由に、代表取締役Dに新株を割り当てる増資を決議した。しかし、Dは既存株主(原告ら)に秘匿して手続きを進め、法定の通知・公告を一切行わずに払込みを完了させた。本件発行により、過半数株主であった原告らの持株比率は低下し、支配関係が逆転する結果となった。また、払込期日が決議の2ヶ月先であり、公示を欠いてまで急ぐ緊急の資金調達必要性も認められなかった。
あてはめ
本件新株発行は、(1)過半数株主である原告らに秘匿して行われたこと、(2)その結果として支配関係の逆転を招いたこと、(3)当時の法改正直前の決議であり、改正後であれば原告らに新株引受権が生じるはずであったこと、(4)緊急の資金調達の必要性も認められないことから、「著しく不公正な方法」による発行にあたる。したがって、差止事由がないとは認められないため、公示手続の欠缺は重大な瑕疵となり、無効原因を構成する。
結論
本件新株発行には無効原因が認められる。よって、本件新株発行を無効とした第一審判決は正当であり、原判決(二審)を破棄し、被告の控訴を棄却する。
実務上の射程
非公開会社における通知欠缺の無効原因化を認めた重要判例。答案上は、まず「原則無効・例外有効(差止事由がない場合)」の枠組みを明示し、あてはめでは支配権争いの有無や資金調達の必要性から「著しく不公正」該当性を検討して無効結論を導く。上場会社等における失念等の軽微な瑕疵とは区別して論じる必要がある。
事件番号: 平成3(オ)1807 / 裁判年月日: 平成6年7月18日 / 結論: 棄却
新株発行無効の訴えにおいて、商法二八〇条ノ一五第一項所定の出訴期間経過後に新たな無効事由を追加して主張することは、許されない。
事件番号: 平成2(オ)391 / 裁判年月日: 平成6年7月14日 / 結論: 破棄自判
株式会社を代表する権限のある取締役によって行われた新株の発行は、それが著しく不公正な方法によってされたものであり、かつ、右会社の取締役がその新株を引き受けて現に保有し、右会社が小規模で閉鎖的な会社であるなど原判示の事情がある場合でも、有効である。
事件番号: 昭和46(オ)396 / 裁判年月日: 昭和46年7月16日 / 結論: 棄却
株式会社の代表取締役が新株を発行した場合には、右新株が、株主総会の特別決議を経ることなく、株主以外の者に対して特に有利な発行価額をもつて発行されたものであつても、その瑕疵は、新株発行無効の原因とはならないものと解すべきである。
事件番号: 平成22(受)1212 / 裁判年月日: 平成24年4月24日 / 結論: 棄却
1 取締役会が商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)280条ノ21第1項に基づく株主総会決議による委任を受けて新株予約権の行使条件を定めた場合において,新株予約権の発行後に上記行使条件を変更することができる旨の明示の委任がないときは,当該新株予約権の発行後に上記行使条件を変更する取締役会決議は,上記行使条件の…