新株発行に関する事項について商法二八〇条ノ三ノ二に定める公告又は通知を欠くことは、新株発行差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となる。
商法二八〇条ノ三ノ二に定める公告又は通知を欠くことと新株発行の無効原因
商法280条ノ3ノ2,商法280条ノ10,商法280条ノ15
判旨
非公開会社において、新株発行に関する公示を欠くことは、差止めの事由がないと認められる特段の事情がない限り、新株発行の無効原因となる。不公正な方法による発行や実質的な出資を欠く払込みは、それ自体では直ちに無効原因とはならない。
問題の所在(論点)
新株発行の無効事由(会社法828条1項2号)の範囲が問題となる。具体的には、公示の欠如、不公正な発行、および出資の実効性の欠如がそれぞれ無効原因に該当するか。
規範
新株発行に関する公示(旧商法280条ノ3ノ2、現会社法201条4項等)は、株主が差止請求権を行使する機会を保障するための法的義務である。したがって、この公示を欠くことは、仮に差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となる。
重要事実
上告会社は昭和63年に新株発行を行ったが、(1)新株発行に関する公示(公告または通知)をせず、(2)取締役1名に対する招集通知を欠く取締役会決議に基づいていた。また、(3)代表取締役が自己の支配権を確立する目的で行ったものであり、(4)引受人の出資が実質を欠くものであった。原審は(3)(4)を理由に無効としたため、上告人が争った。
あてはめ
まず、不公正な方法(支配権維持目的)による発行や見せ金等の不当な払込みは、法制度上の是正手段(取締役の引受責任等)が存在するため、それ自体では無効原因とならない。しかし、本件では新株発行の公示が全く行われておらず、株主に差止請求の機会が与えられていない。本件における支配権維持目的の発行等は差止事由に該当し得るため、「差止めの事由がないために許容されない場合」には当たらない。したがって、公示を欠いた手続的瑕疵は重大であり、無効原因を構成する。
結論
本件新株発行は、公示を欠いた点において無効原因がある。不公正発行等を理由に無効とした原審の論理は失当であるが、結論において新株発行を無効とした判断は是認できる。
実務上の射程
非公開会社における募集株式発行の公示欠如が無効事由となることを示した重要判例である。答案上は、まず「不公正発行」や「適正な払込みの欠如」が原則として無効事由にならないことを明示した上で、公示欠如という手続瑕疵と差止事由(実体瑕疵)の存在を組み合わせて、無効の結論を導く際に使用する。
事件番号: 平成5(オ)316 / 裁判年月日: 平成9年1月28日 / 結論: 破棄自判
新株発行不存在確認の訴えは、会社を被告としてのみ提起することができる。
事件番号: 平成2(オ)391 / 裁判年月日: 平成6年7月14日 / 結論: 破棄自判
株式会社を代表する権限のある取締役によって行われた新株の発行は、それが著しく不公正な方法によってされたものであり、かつ、右会社の取締役がその新株を引き受けて現に保有し、右会社が小規模で閉鎖的な会社であるなど原判示の事情がある場合でも、有効である。
事件番号: 昭和29(オ)797 / 裁判年月日: 昭和31年11月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】取締役会の招集手続を省略するためには、全取締役(および監査役)の同意が必要であるが、その事実が認められない場合には、招集手続を欠いた取締役会決議は原則として無効となる。本判決は、招集手続省略の同意があったとの主張に対し、事実認定の観点からこれを否定した原審の判断を維持したものである。 第1 事案の…