株式会社を代表する権限のある取締役によって行われた新株の発行は、それが著しく不公正な方法によってされたものであり、かつ、右会社の取締役がその新株を引き受けて現に保有し、右会社が小規模で閉鎖的な会社であるなど原判示の事情がある場合でも、有効である。
著しく不公正な方法によってされた新株発行の効力
商法280条ノ15
判旨
取締役会決議を欠く場合や、支配権維持を目的とする著しく不公正な方法による場合であっても、代表権を有する取締役が新株発行を行った以上、新株発行は原則として無効とはならない。
問題の所在(論点)
取締役会決議を欠く新株発行、および著しく不公正な方法による新株発行は、新株発行無効の訴え(会社法828条1項2号)における無効事由となるか。
規範
新株発行は会社の業務執行に準じて取り扱われるものであるから、会社を代表する権限のある取締役が新株を発行した以上、有効な取締役会決議を欠く場合であっても、その新株発行は有効である。この理は、新株が著しく不公正な方法により発行された場合であっても同様であり、取引関係に立つ第三者を含む広範な法律関係に影響を及ぼす可能性がある以上、その効力は画一的に判断されるべきである。したがって、引受人が取締役であることや、会社が小規模・閉鎖的であるといった個別事情の有無によって無効原因が認められることはない。
重要事実
上告人会社の取締役Dは、支配株主である代表取締役(被上告人)と対立し、自らの支配権を確立する目的で、被上告人が入院中に招集通知を欠いた不適法な取締役会を開催した。そこで募集株式全部をD自身が引き受ける新株発行を決議し、被上告人に秘したまま発行を完了させた。被上告人は、①招集手続の瑕疵による取締役会決議の不存在、および②支配権維持を目的とした著しく不公正な発行であることを理由に、新株発行の無効を訴えた。
あてはめ
本件における新株発行は、会社を代表する権限を有する取締役(D)によってなされており、形式上は代表権に基づく行為としての外観を備えている。原審は、新株の引受人が発行を計画した取締役本人であり、かつ閉鎖的な会社であることから取引の安全を考慮する必要がない「特別の事情」があるとして無効を認めた。しかし、新株発行の効力は法的安定性の観点から画一的に決すべきであり、引受人が取締役であることや会社の規模といった具体的事実によって結論を左右させるべきではない。したがって、決議の欠缺や不公正発行という瑕疵があっても、代表取締役による発行である以上、直ちに無効とは解されない。
結論
取締役会決議の欠缺や著しく不公正な方法による発行は、いずれも新株発行を当然に無効とする事由には当たらない。
実務上の射程
新株発行の無効事由を限定的に解釈する確立した判例である。答案上は、発行後の差止めの可否ではなく「発行後の無効」を論じる際に、取引の安全と法的安定性を理由として、手続き上の瑕疵や不公正発行を無効事由から排除する文脈で使用する。ただし、現行法下の実務や学説では、公開会社と非公開会社で無効事由の範囲を異ならせる議論がある点に留意が必要だが、本判例の「画一的判断」のロジックは依然として強力な規範として機能する。
事件番号: 昭和32(オ)79 / 裁判年月日: 昭和36年3月31日 / 結論: 棄却
株式会社を代表する権限のある取締役が新株を発行した以上、これにつき有効な取締役会の決議がなくても、右新株の発行は有効である。
事件番号: 昭和46(オ)396 / 裁判年月日: 昭和46年7月16日 / 結論: 棄却
株式会社の代表取締役が新株を発行した場合には、右新株が、株主総会の特別決議を経ることなく、株主以外の者に対して特に有利な発行価額をもつて発行されたものであつても、その瑕疵は、新株発行無効の原因とはならないものと解すべきである。
事件番号: 昭和29(オ)797 / 裁判年月日: 昭和31年11月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】取締役会の招集手続を省略するためには、全取締役(および監査役)の同意が必要であるが、その事実が認められない場合には、招集手続を欠いた取締役会決議は原則として無効となる。本判決は、招集手続省略の同意があったとの主張に対し、事実認定の観点からこれを否定した原審の判断を維持したものである。 第1 事案の…
事件番号: 平成5(オ)317 / 裁判年月日: 平成9年1月28日 / 結論: 棄却
新株発行に関する事項について商法二八〇条ノ三ノ二に定める公告又は通知を欠くことは、新株発行差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となる。