株式会社の代表取締役が新株を発行した場合には、右新株が、株主総会の特別決議を経ることなく、株主以外の者に対して特に有利な発行価額をもつて発行されたものであつても、その瑕疵は、新株発行無効の原因とはならないものと解すべきである。
株式会社の代表取締役が株主総会の特別決議を経ることなく株主以外の者に対して特に有利な発行価額をもつて新株を発行した場合と新株発行無効原因の有無
商法280条ノ2
判旨
株主総会の特別決議を経ずに、第三者に対して特に有利な発行価額で新株を発行した場合であっても、その瑕疵は新株発行無効の原因とはならない。
問題の所在(論点)
株主総会の特別決議を経ない有利発行(会社法199条2項、201条1項、309条2項5号等に相当する手続の欠如)が、新株発行無効の訴えにおける無効原因となるか。
規範
新株発行が株主以外の者に対して特に有利な発行価額(有利発行)で行われる場合、株主総会の特別決議を必要とするが、この手続上の瑕疵は、取引の安全および法的安定性の観点から、新株発行無効の訴え(会社法828条1項2号)における無効原因には当たらない。
重要事実
株式会社の代表取締役が新株を発行した際、当該新株の発行が株主以外の者に対して「特に有利な発行価額」であったにもかかわらず、法令上必要とされる株主総会の特別決議を経ることなく発行がなされた。上告人は、この手続的瑕疵を理由に、本件新株発行の無効を主張して訴えを提起した。
事件番号: 平成2(オ)391 / 裁判年月日: 平成6年7月14日 / 結論: 破棄自判
株式会社を代表する権限のある取締役によって行われた新株の発行は、それが著しく不公正な方法によってされたものであり、かつ、右会社の取締役がその新株を引き受けて現に保有し、右会社が小規模で閉鎖的な会社であるなど原判示の事情がある場合でも、有効である。
あてはめ
有利発行における株主総会決議の要求は、既存株主の持分価値の希釈化を防止し、株主の利益を保護するためのものである。しかし、一度発行された新株は広く流通し、多数の利害関係人が生じる。本件のように、決議を欠いたまま発行がなされた場合、その瑕疵は内部的な手続の不備にとどまる。既存株主の利益保護という観点よりも、新株を前提とした取引の安全や会社をめぐる法律関係の安定を優先すべきであるから、無効原因として認めるべきではないと解される。
結論
特別決議を欠く有利発行の瑕疵は新株発行無効の原因とはならないため、上告人の請求は棄却される。
実務上の射程
本判決は旧商法下のものだが、現行会社法下でも維持されている。新株発行の無効原因は、原則として発行自体が会社法上の不成立に等しい場合や、極めて重大な法令・定款違反に限られる。有利発行決議の欠如や、募集事項の公示(通知・公告)の欠如などの手続的瑕疵は、差止事由(210条)にはなり得るが、発行後の無効原因にはならないという「取引の安全」重視の枠組みとして答案で活用すべきである。
事件番号: 昭和32(オ)79 / 裁判年月日: 昭和36年3月31日 / 結論: 棄却
株式会社を代表する権限のある取締役が新株を発行した以上、これにつき有効な取締役会の決議がなくても、右新株の発行は有効である。
事件番号: 昭和39(オ)1062 / 裁判年月日: 昭和40年10月8日 / 結論: 棄却
株式会社の代表取締役が新株を発行した場合には、右新株が、新株引受権を株主以外の者に付与することについての株主総会の特別決議を経ることなく右株主以外の者に引受権を付与して発行されたものであつても、その瑕疵は新株発行無効の原因とならない。
事件番号: 昭和29(オ)797 / 裁判年月日: 昭和31年11月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】取締役会の招集手続を省略するためには、全取締役(および監査役)の同意が必要であるが、その事実が認められない場合には、招集手続を欠いた取締役会決議は原則として無効となる。本判決は、招集手続省略の同意があったとの主張に対し、事実認定の観点からこれを否定した原審の判断を維持したものである。 第1 事案の…