株式会社を代表する権限のある取締役が新株を発行した以上、これにつき有効な取締役会の決議がなくても、右新株の発行は有効である。
有効な取締役会の決議を経ない新株発行の効力。
商法280条ノ2
判旨
取締役会の決議を経ずになされた新株発行は、対外的に会社を代表する権限のある取締役によってなされた限り、特段の事情がない限り有効である。
問題の所在(論点)
取締役会の決議を欠く新株発行(会社法201条1項、現行法下での募集事項の決定等に相当)が、対外的な効力として無効事由となるか。
規範
株式会社の新株発行において、有効な取締役会の決議を欠く場合であっても、対外的に会社を代表する権限のある取締役がこれを行ったときは、その発行は有効であると解する。これは、授権資本制度の下で新株発行が業務執行に準ずる性質を有すること、および会社内部の意思決定にすぎない決議の存否は外部から容易に知り得ないことから、取引の安全を重視すべきであるとの判断に基づく。
重要事実
株式会社において、新株発行の手続きが行われたが、その前提となる有効な取締役会の決議を欠いた状態で、代表権限を有する取締役によって発行が実施された。上告人らは、取締役会の決議を欠く新株発行は無効であると主張して、その効力を争った。
事件番号: 昭和39(オ)1062 / 裁判年月日: 昭和40年10月8日 / 結論: 棄却
株式会社の代表取締役が新株を発行した場合には、右新株が、新株引受権を株主以外の者に付与することについての株主総会の特別決議を経ることなく右株主以外の者に引受権を付与して発行されたものであつても、その瑕疵は新株発行無効の原因とならない。
あてはめ
まず、改正商法(当時)が授権資本制を採用し、新株発行を定款変更ではなく取締役会の権限に委ね、払込のあった分だけで有効に成立させる(旧商法280条の9)としている点に鑑みれば、新株発行は組織に関する行為とはいえ、実質的には業務執行に準ずるものといえる。次に、取締役会の決議はあくまで会社内部の意思決定にすぎず、株式申込人にとってその決議の存否を外部から知ることは困難である。したがって、代表権限のある取締役が発行を行った以上、内部的手続きの瑕疵をもって対外的な効力を否定することはできないと解される。
結論
取締役会の決議を欠く新株発行であっても、代表取締役によってなされた場合は有効である。
実務上の射程
新株発行無効の訴えにおける「無効事由」の限定解釈として、答案上極めて重要な判例である。現行会社法下でも、取引の安全・法的安定性の観点から、内部的手続き(取締役会決議や株主総会決議)の欠缺は原則として無効事由にならないとする法理の基礎となる。ただし、非公開会社における株主総会決議の欠缺など、他の無効事由との峻別が必要である。
事件番号: 平成2(オ)391 / 裁判年月日: 平成6年7月14日 / 結論: 破棄自判
株式会社を代表する権限のある取締役によって行われた新株の発行は、それが著しく不公正な方法によってされたものであり、かつ、右会社の取締役がその新株を引き受けて現に保有し、右会社が小規模で閉鎖的な会社であるなど原判示の事情がある場合でも、有効である。
事件番号: 昭和46(オ)396 / 裁判年月日: 昭和46年7月16日 / 結論: 棄却
株式会社の代表取締役が新株を発行した場合には、右新株が、株主総会の特別決議を経ることなく、株主以外の者に対して特に有利な発行価額をもつて発行されたものであつても、その瑕疵は、新株発行無効の原因とはならないものと解すべきである。
事件番号: 昭和29(オ)797 / 裁判年月日: 昭和31年11月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】取締役会の招集手続を省略するためには、全取締役(および監査役)の同意が必要であるが、その事実が認められない場合には、招集手続を欠いた取締役会決議は原則として無効となる。本判決は、招集手続省略の同意があったとの主張に対し、事実認定の観点からこれを否定した原審の判断を維持したものである。 第1 事案の…