原審の判示するところは、単に、被告人から控訴した事件において、一審の弁護人であつた梅山実明、同伊藤静男から控訴趣意書と題する書面が提出されたけれども、右弁護人等の原審における選任届は控訴趣意書提出最終日を経過した後に提出されたため、右控訴趣意書は結局無権限のものによつて提出された無効のものであり且つ後に提出された弁護人届によつてその効力を追究し得ないというにすぎないのである。従つて、刑訴三七六条一項、刑訴規則二三八条準用の問題は生じないわけではないが所論のように憲法違反の違法はなく、所論は結局違憲に名を藉り単なる訴訟違背の主張をするに帰し適法な特別抗告の理由とならない。
控訴趣意書提出期間経過後弁護届を差し出した弁護人の控訴趣意書の効力
刑訴法376条1項,刑訴規則236条,刑訴規則238条,刑訴規則18条
判旨
憲法37条3項の弁護人依頼権は被告人が自ら行使すべきものであり、裁判所は被告人にその機会を与え行使を妨げなければ足りる。裁判所は、被告人に対して弁護人選任を請求できる旨を告知すべき義務を負わない。
問題の所在(論点)
裁判所は、被告人に対し弁護人の選任を請求し得る旨を告知すべき憲法上の義務を負うか。また、期限後に提出された選任届に基づき、無権限者が提出した控訴趣意書の効力が追完されるか。
規範
1. 憲法37条3項前段の弁護人依頼権は、被告人が自ら行使すべき権利である。裁判所は、被告人にその機会を与え、かつ行使を妨げなければ足りる。 2. 同条項後段の国選弁護制度は、被告人が自ら請求した際に国がこれを選任すれば足り、裁判所に対し、被告人へ選任請求が可能である旨を告知すべき義務を課すものではない。
重要事実
被告人が自ら控訴した事件において、第一審の弁護人であった者から「控訴趣意書」と題する書面が提出された。しかし、当該弁護人らの控訴審における選任届は、控訴趣意書の提出最終期限を経過した後に提出されたものであった。原審(控訴審)は、当該書面は無権限者によって提出された無効なものであり、後の選任届によっても効力を追完できないと判断した。これに対し、被告人側は弁護人依頼権の侵害(憲法違反)等を主張して特別抗告を申し立てた。
事件番号: 昭和28(し)56 / 裁判年月日: 昭和30年2月23日 / 結論: 棄却
憲法三七条三項前段所定の弁護人に依頼する権利は、被告人が自ら行使すべきもので、裁判所は被告人にこの権利を行使する機会を与え、その行使を妨げなければ足るものであること、同条項後段の規定は被告人が貧困その他の理由で弁護人を依頼できないときは国に対して弁護人の選任を請求できるものであり、国はこれに対して弁護人を附すれば足るも…
あてはめ
本件において、被告人は自ら控訴を提起しているが、有効な弁護人の選任は控訴趣意書の提出期限内になされていない。憲法上の弁護人依頼権は被告人の能動的な行使を前提としており、裁判所が機会を保障し妨害していない以上、権利侵害はない。また、告知義務も憲法上認められない。さらに、提出期限経過後に提出された選任届によって、期限内になされた無権限者の訴訟行為(控訴趣意書の提出)の瑕疵が治癒・追完されることもない。したがって、控訴趣意書の提出がなかったものとして扱った原審の判断に憲法違反の違法は認められない。
結論
本件特別抗告を棄却する。裁判所に弁護人選任請求権の告知義務はなく、期限後の選任届による無効な控訴趣意書の追完も認められない。
実務上の射程
弁護人依頼権の法的性格(自己責任原則)と裁判所の不告知の合憲性を確認した判例である。答案上は、被告人が弁護人不在により訴訟上の不利益を被った場合でも、裁判所が権利行使を物理的に妨げた等の事情がない限り、手続の違憲・違法を主張することは困難であることを示す際に活用する。特に、控訴趣意書の提出期限等の期間制限の厳格性を支える論拠となる。
事件番号: 昭和25(し)27 / 裁判年月日: 昭和26年2月9日 / 結論: 棄却
強制弁護の事件につき、裁判所が被告人に対し、弁護人を選任することができること、貧困その他の事由によつて弁護人を選任することができないときは、弁護人の選任を請求することができるとの記載のある弁護人選任に関する通知を出したのに対し、被告人から自分の方で弁護人甲を選任する旨を回答があつた場合には、控訴裁判所は被告人に対し、控…
事件番号: 昭和30(し)49 / 裁判年月日: 昭和30年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴趣意書の差出期間内に弁護人が選任されず趣意書が提出されなかった場合であっても、それが被告人の責に帰すべき事由によるものであり、裁判所が弁護人選任権を妨げた事情がない限り、控訴棄却の決定は憲法に反しない。 第1 事案の概要:詐欺被告事件の控訴審において、裁判所は控訴趣意書の差出最終日を2月10日…
事件番号: 昭和27(し)36 / 裁判年月日: 昭和27年7月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴申立期間の経過後に控訴の提起があった場合において、申立人に手落ちがなかったと認められない限り、控訴棄却の決定は正当である。刑事訴訟法に基づく救済措置を求めるには、不備が生じたことについて当事者の責めに帰すべき事由がないことを要する。 第1 事案の概要:申立人は、控訴申立期間を徒過して控訴を提起…
事件番号: 昭和30(し)17 / 裁判年月日: 昭和30年4月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条3項の弁護人依頼権は被告人が自ら行使すべき権利であり、裁判所は被告人にその機会を与え、その行使を妨げない限り、同条に違反しない。 第1 事案の概要:特別抗告人が憲法37条3項所定の弁護人に依頼する権利の侵害を主張して特別抗告を申し立てた事案。具体的な事件の背景や手続上の詳細は判決文からは…