判旨
上訴権回復の請求が認められるためには、被告人が自ら上訴手続をとり得ない程度の病状等にあることを要し、単なる病状の存在のみでは足りない。
問題の所在(論点)
刑事訴訟法362条所定の「避けることのできない事由」の存否に関し、被告人の病状がどの程度の状態にあれば上訴権回復が認められるか。また、事実認定の不当を憲法違反として特別抗告の理由にできるか。
規範
刑事訴訟法362条の「自己又は代理人が上訴の提起期間内に上訴をしないことが、避けることのできない事由に因るもの」といえるためには、客観的にみて被告人等が自ら上訴手続を行うことが不可能な状態にあることを要する。病気の場合には、単に療養を要する程度では足りず、意思表示や手続遂行が困難なほど重篤な病状であることを要すると解される。
重要事実
被告人は、上告提起期間内に上告手続をとらなかった。その後、当時の病状により手続が不可能であったとして上訴権回復の請求を申し立てた。原審は、被告人の当時の病状を検討した結果、未だ自ら上告手続をとり得ないほど重いものとは認められないと判断し、請求を棄却した。これに対し、被告人は憲法違反等を主張して特別抗告を申し立てた。
あてはめ
原審の認定によれば、被告人の病状は「自ら上告手続をとり得ない程のもの」とは認められない。すなわち、病気という事実は存在するものの、それが上告手続の遂行を客観的に不能にするほど重大な障害とはいえない。また、抗告人が主張する内容は、単に原決定の事実認定を争うものに過ぎず、原決定が憲法上の判断を示していない以上、適法な特別抗告の理由(刑訴法405条準用)には当たらない。
結論
被告人の病状が自ら上訴手続をとり得ないほど重篤ではない以上、上訴権回復の請求は認められない。また、単なる事実誤認の主張は不適法であり、本件特別抗告を棄却する。
事件番号: 昭和28(す)163 / 裁判年月日: 昭和28年4月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判官の忌避の裁判が憲法32条、37条1項に違反するという主張は、独自の憲法解釈に基づかない限り、実質的には訴訟法違反を主張するものにすぎず、特別抗告の理由とはならない。裁判官の構成を含め、法に従った裁判所の判断は憲法上の裁判を受ける権利を保障しているものと解される。 第1 事案の概要:本件は、裁…
実務上の射程
上訴権回復の要件である「避けることのできない事由」の解釈において、病状の程度を厳格に解する実務上の指針となる。答案上では、被告人の病気や身体的拘束を理由とする期間徒過の事案において、客観的な手続遂行可能性の有無を検討する際の判断指標として用いる。また、特別抗告の理由の限定性を示す素材としても活用できる。
事件番号: 昭和28(し)10 / 裁判年月日: 昭和28年3月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法32条の裁判を受ける権利の侵害を主張しても、その実質が単なる訴訟法違反の主張にすぎない場合は、刑訴法405条の特別抗告理由には当たらない。 第1 事案の概要:被告人が原判決に対し、憲法32条(裁判を受ける権利)の違反を理由として特別抗告を申し立てた事案。しかし、その主張の具体的な内容は、原審の…
事件番号: 昭和27(し)28 / 裁判年月日: 昭和27年8月5日 / 結論: 棄却
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事件番号: 昭和29(し)28 / 裁判年月日: 昭和29年9月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上訴権回復請求を棄却した決定は、刑事訴訟法433条1項にいう「この法律により不服を申し立てることができない決定」には該当せず、特別抗告の対象とはならない。 第1 事案の概要:抗告人は、名古屋高等裁判所が昭和29年5月21日に行った上訴権回復請求を棄却する決定に対し、最高裁判所に特別抗告を申し立てた…
事件番号: 昭和30(し)5 / 裁判年月日: 昭和30年2月28日 / 結論: 棄却
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